大規模な自然災害の発生は不可避であり、正確な予知も不可能だ。いつか必ず来る次の大規模災害に備えるには災害に対するレジリエンス(復元力)を高めるしかない。テクノロジーがそれにどう貢献しているのか。災害対策ITの最前線を紹介しよう。
2011年3月11日に発生した東日本大震災の死者・行方不明者が多く出た理由の1つに、当時の地震観測網が十分ではなかったことがあった。政府は1995年1月の阪神・淡路大震災を教訓にして、陸上での地震観測網は拡充してきた。
しかし2011年当時、地震計は陸域に1490基あったのに対して、海域には45基しかなかった。日本列島の東側、日本海溝付近で発生した地震の規模は、震源から数百キロメートル離れた陸上の地震計で得たデータから推計しなければならなかった。
観測網を急ピッチで整備
観測体制が不十分だったため、気象庁は地震発生の3分後、その規模をマグニチュード(M)7.9と過小評価してしまう。津波の高さは宮城県で6メートル、岩手県と福島県で3メートルと予測して警報を出した。だが実際の規模は、エネルギー量が40倍以上のM9.0だった。気象庁は地震発生から28分後に予測を改め、宮城県で10メートル以上、岩手県と福島県で6メートルの津波が来るとの警報を出した。しかし既に停電していた被災地で警報は受け取れず、多くの被災者が津波から逃げ遅れてしまった。
悲劇を繰り返してはならない。政府は東日本大震災以降、海底地震津波観測網の整備を急ピッチで進めてきた。17年までに整備した日本海溝海底地震津波観測網(S-net)は、北海道から関東までの海底に5500キロメートルの海底ケーブルを張り巡らし、150基の地震津波観測装置を配備する。
これによって「海域で発生した地震の大きさを陸上の地震観測網に比べて最大30秒程度、津波なら最大20分程度早く検知できるようになった」(防災科学技術研究所の青井真地震津波火山ネットワークセンター長)。
実際に16年8月20日18時ごろに三陸沖でM6.4の地震が発生した際に、S-netが陸上観測網の22秒前に地震を検知できたという。津波の発生を沖合で素早く検知して陸に情報を伝え、迅速な避難などに役立てられるようになった。
観測データは防災科研だけでなく気象庁とも共有し、16年7月から津波警報、19年6月から緊急地震速報に活用している。
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