脱炭素社会に向けた動きの加速や新型コロナウイルスの感染対策で、光触媒が注目されている。光や二酸化炭素、水さえあれば起きる反応で、人にも環境にもやさしいことが特長だ。半世紀前、日本の研究者が世界で初めて発見した効果への期待が高まっている。
東京大学の敷地で行われている人工光合成の実験の様子。光触媒のシートが太陽光を受けて反応する

 東京大学構内の敷地に並べられた、25cm四方、厚さ1~2cmの16個の水槽。それぞれの水槽からつながるチューブが水の入ったバケツに伸び、その先端から小さな泡がプクプクと出ている。太陽の光を浴びて、反応しているようだ。

 これは、植物の光合成をまねた「人工光合成」の実験だ。植物による光合成は太陽光を受けて水と二酸化炭素(CO2)から酸素と糖を作る。それに対しここで実験中の人工光合成は、水とCO2から化学製品を作ろうというものだ。水中から出ている泡の正体は、分解された水素と酸素。水槽に敷かれた数mmの光触媒のシートが、太陽光を受けて作用し、水を水素と酸素に分解している。

植物の光合成を模した人工光合成
●「光合成」と「人工光合成」の比較

50年前に日本で効果発見

 世界的な脱炭素の動きの加速に加え、新型コロナウイルスの感染防止で最近よく耳にするようになった技術が「光触媒」だ。光を当てると化学反応を促す触媒作用や、そうした触媒の働きをする物質のことを指す。

 一般的に、水から水素と酸素に分解するプロセスでは電気分解を使う。だが、「光触媒の作用を用いれば、コストがもっと安くなる可能性がある」とこのプロジェクトの担当者は強調する。

 「人工光合成プロジェクト」と銘打つこの取り組みは2012年度に始動。国が10年間で約150億円を投じてきた。プロジェクトに参画するのは、三菱ケミカルや富士フイルム、TOTOといった企業数社と、東京大学など研究機関の総勢約150人の研究者たち。東京大学の堂免一成特別教授がチームリーダーとなり、人工光合成の変換効率を向上させる光触媒を探している。

 これまであまり注目されてこなかったが、19年1月下旬にスイスで開かれたダボス会議で、当時の安倍晋三首相が「光触媒」や「人工光合成」に言及した。菅義偉首相も50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言。20年末に発表した国の「グリーン成長戦略」の重点14分野の一つ「カーボンリサイクル産業」でも人工光合成を推進する方針を掲げている。

 光触媒は1970年ごろに世界で初めて日本の研究者がその効果を発見した。72年には、当時東大の大学院生だった藤嶋昭氏(前東京理科大学学長)らが英科学雑誌「ネイチャー」に「ホンダ・フジシマ効果」を発表。酸化チタンに光を当てると水が水素と酸素に分解されることを明らかにした。その論文をきっかけに光触媒が世界中で知られるようになり、それ以降、光触媒は日本の研究力の高さを誇る分野の一つであり続けている。光触媒工業会によると、2019年の国内市場規模は約600億円。

続きを読む 2/3 水素とCO2から化学物質生成

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