人が生む運動や温度のエネルギーを活用した高機能素材の開発が活発になっている。菌の発生を抑制する繊維に、体形に合わせて自在に形を変える下着、ストレスを「見える化」する衣類……。海外製品との価格競争にさらされ続けてきた繊維業界が、競争力を取り戻すきっかけになるとの期待を集める。

<span class="fontBold">ピエクレックスは衛生用品などでの利用を見込む</span>
ピエクレックスは衛生用品などでの利用を見込む

 人の動きに合わせて服が引っ張られたり曲げられたりすることで、菌を死滅させ、増殖を抑制する──。村田製作所と帝人傘下の帝人フロンティア(大阪市)が共同出資する新会社のピエクレックス(滋賀県野洲市)が開発した新素材「ピエクレックス」だ。

 ピエクレックスの開発がスタートしたのは2016年。センサー技術を得意とする村田製作所の開発チームが、アパレル会社に人の動きを検知できるデバイスを使った新たな衣料品の提案をしたことがきっかけだ。だがアパレル会社から「センサーでデータを取得しても次の服の開発へ生かすのは難しい。それよりも衛生面で機能的な素材ができないか」と相談を受けた。

 目を付けたのが、生分解性のバイオプラスチック「ポリ乳酸」を使った素材の開発だ。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵させて作り出した乳酸に、化学的な工程を経ることで生まれる素材。石油由来ではなく環境に優しい製品としても知られるが、注目すべきは押したり引っ張ったりするなど力を加えると電気を発生する「圧電性」と呼ばれる特徴を持つことだ。

電気の力で菌を死滅

 応用したのは、電界を発生させると細胞膜を破り、穴を開ける「エレクトロポーション」という現象。細胞膜が破れると中身が漏れ出すため、菌などが死滅するというもの。ポリ乳酸を混ぜた繊維からなる服を人が着ると繊維の隙間に電気を発生させる。その電界を使って、繊維にもぐりこんだ菌の細胞膜を破り、殺すというのがピエクレックスの原理だ。

人が動く力を使って、菌の発生を抑制する
●抗菌性能を持った繊維の構造
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 帝人フロンティアはもともとポリ乳酸を使った組みひも状のセンサーの技術を持ち、村田製作所は家電などに使う圧電フィルムの開発に携わっていた。ただ、数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの繊維の世界。効率よく電気を発生させ、死滅させることを証明できなければ繊維として使ってもらえない。共同出資会社ピエクレックスのブランディングチームのチームリーダー、井上貴文氏は「ポリ乳酸からいかに効率よく電気を発生させ、抗菌性能があるのか計測し、証明するかが課題だった」という。