菅義偉首相は10月の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言した。決して容易ではない目標達成に向け切り札となりそうなのが、CO2を資源として再利用する技術だ。CO2の排出量を9割削減できる発電所やCO2を原料とする素材など、幅広い分野で技術開発が進む。

<span class="fontBold">大崎クールジェンは石炭火力発電所で、2019年からカーボンリサイクルの実験をしている。90%のCO2を回収することに成功した</span>(写真=宮田 昌彦)
大崎クールジェンは石炭火力発電所で、2019年からカーボンリサイクルの実験をしている。90%のCO2を回収することに成功した(写真=宮田 昌彦)

 瀬戸内海に浮かぶ面積約1km2の小さな島に、エネルギー業界の関係者が注目する場所がある。中国電力とJパワーが折半出資する大崎クールジェン(広島県大崎上島町)の石炭火力の試験発電所だ。

 ここで2019年12月から、発電の過程で排出される二酸化炭素(CO2)を回収する実験をしている。同社の久保田晴仁総務企画部長は「実現すれば従来の石炭火力発電に比べてCO2を9割削減できる」と話す。22年度までに実験を終わらせ、商用化のめどを立てる。

 菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言したことで、「カーボンニュートラル」が注目を浴びている。これは、生産活動などによる温室効果ガス排出量と森林などの吸収量を同じにし、差し引きで排出量をゼロにする考え方。15年に採択された、地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである「パリ協定」をきっかけに広まった。

容易でないカーボンニュートラル

 国際エネルギー機関(IEA)によると、18年の世界のCO2排出量は約335億トン。50年までにカーボンニュートラルを達成するには、30年までに10年比で約45%削減する必要がある。英国が50年までに実質ゼロとすることを法律に盛り込むなど、欧州諸国は積極的な対策を取る。一方の日本は11年の福島第1原発の事故を機に火力発電への依存度を高めるなど、世界の潮流に逆行していた。

 だが国際世論の高まりや、ESG投資の台頭は無視できない。今年9月には中国も「60年にCO2排出量実質ゼロ」を宣言。日本も世界の潮流に乗り遅れまいと本腰を入れ始めた。

 50年までのカーボンニュートラル達成は容易ではない。日本のCO2排出量の約4割は発電所などに由来しており、再生可能エネルギーの普及は有効な一手とされる。

 政府は再エネを主力電源化する考えだが、再エネによる発電は17年度で全体の8.1%にとどまる。発電量が天候に左右されやすく、発電所の建設に必要なまとまった土地に限りがあるといった課題も抱えており、どこまで普及するかは未知数だ。

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