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コロナ禍の収束が見えない中、商業施設などで「非接触操作」を導入する動きが広がっている。AI、静電容量、赤外線……。「触らず」に操作する技術を実現しようと各社は工夫を凝らす。触らない操作で感染リスクを低減する技術革新は、ニューノーマルとなる可能性を秘めている。

 「いらっしゃいませ。人数を入力してください」。10月中旬、回転ずしチェーン大手のくら寿司池袋サンシャイン60通り店に入店すると、自動受付案内機から威勢のいいかけ声が発せられた。人数などを入力しようと来店客がディスプレーに指を近づける。本来なら指先をパネルに押し当てていただろう。だが2人連れの女性客がパネルに示された数字に触れる3cmほど手前で「2」が入力された。画面に触れることがない「非接触操作」だ。

パネルの約3cm手前で操作が可能に
●くら寿司が非接触レジを導入

 くら寿司が同店と大阪市内の2店舗で「タッチレス端末」を導入した理由はコロナ禍による衛生観念の変化だ。タッチ式の端末には不特定多数の客が触れており、感染拡大の原因となることも懸念される。そんな「触りたくない」というニーズを受けて、飲食店や公共施設では非接触操作への関心が高まっている。

 くら寿司が導入したタッチレス操作システム「指のマウス(UbiMouse)」を開発したのは、人工知能(AI)を使ったサービス開発などを手掛ける知能技術(大阪市)。同社はコロナショック前の2019年夏ごろから技術開発を進めていた。「自分がATMや券売機などのタッチパネルを『触りたくない』ことから開発が始まった」と同社の大津良司社長は経緯を明かす。

AIが指先の動きを検知

 「指のマウス」の特長は、パソコンやディスプレーに取り付けたカメラとAIで指先の動きを検知し、指がパソコンのマウスのような役割を果たして「クリック」などの非接触操作を実現するというもの。

 AIを使ったロボット開発なども手掛ける同社では、「グー」や「パー」など手の動きを認識し、ロボットを操作する技術を持っていた。これを指先の動きをAIが認識できるように学習させたのが「指のマウス」だ。

 カメラが指をマウスポインタとして認識し、端末を操作する。コンセプトは単純だが、実現は困難を極めた。「2次元でしか動きを認知できないカメラで、個々人によって異なる指先を、AIが3次元の動きとして捉えた上で『これが指先』と認識するまで学習させる。このことにかなりの時間を要した」と大津社長。

 くら寿司の端末にはカメラが設置されていないため、同店ではディスプレー下部に設置された厚さ3.5cmほどの筐体(きょうたい)が、画面に触れる手前で指の動きを感知するための光を発している。指の動きによる光や影の変化などからマウスのように端末を操作できるようになるというわけだ。

 「指のマウス」は神戸市内の区役所の受付で実証実験が行われたほか、凸版印刷のショールームで導入された。手が汚れていたり手袋をつけていたりしても操作が可能なため、将来的には工場や医療機関などでの導入も期待できるという。

日経ビジネス2020年11月9日号 96~98ページより目次