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材料開発は長期的な取り組みができる日本の得意分野だ。構造や補強材(フィラー)の入れ方を、分子レベルで改良する知見が最近の原動力だ。時間を短縮するため、コンピューターによるシミュレーションと人工知能(AI)を利用する試みも進む。

 水が表面に対して、150度以上の接触角で接する状態を超撥水(はっすい)という。水滴を接触させた場合、直観的には水滴が球形を保ったまま物体の上に乗っているように見える状況になる。超撥水性を実現できると、水溶性の汚れを付きにくくしたり、高い防水性能を実現できたりする。水中での摩擦抵抗の低減も実現できる。例えば船底の外面に超撥水性を与えられれば、船を動かすエネルギーが少なくて済むようになる。

摩擦や変形に強い

 物質・材料研究機構は2019年9月、新しい超撥水性材料を開発したと発表した。塗料のように物体表面をコーティングしやすく、コストも安くて済む。従来と異なり、摩擦や変形を受けても超撥水性を失わない、耐久性の強さを兼ね備える超撥水性材料だ。

 超撥水性を持つ自然物として知られるハスの葉は、水滴が付着しても転がり落ちてしまう。その表面を拡大して観察すると、十数マイクロメートルの間隔で微細な突起が見える。この微細な突起の間には空気がたまりやすく、「水と空気はなじみが悪いので水は丸まろうとする」(物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 データ駆動高分子設計グループ グループリーダーの内藤昌信氏)。水滴はハスの葉の突起の先だけで接している。この状況を人工的に再現できれば、超撥水性も実現できると知られていた。

撥水性があるハスの葉表面の微細構造
(a)ハスの葉と、(b)表面にある微細な凹凸。(c)微細な突起が形成する空隙が空気層を作り、水の付着を妨げる撥水性が生じる(写真・イラスト=物質・材料研究機構提供)

 目をつけたのが酸化亜鉛。酸化亜鉛の結晶は消波ブロックや、忍者が敵の追跡を妨害するために使う「まき菱」のように、立体的にトゲが4本突き出した形をしている。正四面体の中心から4つの頂点に向かってトゲが突き出したような形状だ。

 このような形状であれば、どの向きでも4本のトゲのどれかは表面に突出させやすい。しかも酸化亜鉛は結晶に強度があり、安価に入手できる。トゲの長さは十数~数十マイクロメートルであり、ちょうどハスの葉の微細構造と同程度だ。

 酸化亜鉛に室温硬化型のシリコーンを一定の割合で混ぜた材料が、狙い通りの超撥水性を示した。折り曲げても引っかいても、撥水性は低下しない。顕微鏡写真で見ると、折り曲げた部位、引っかいた部位の表面にもトゲが存在していた。

引っかいても曲げても撥水性を維持
酸化亜鉛の結晶は立体的な骨格構造のため、空気を保持する隙間がなくならない。(a)曲げ動作を1000回繰り返した後の様子と表面の拡大、(b)表面にひっかき傷をつけたときの様子と表面の拡大(写真=物質・材料研究機構提供)