テントウムシやカメムシ、ダニの一種などを活用して農産物の害虫を駆除する「生物農薬」への注目が高まっている。従来の化学合成農薬は環境への影響が懸念され、効きにくくなる耐性・抵抗性の課題もあるからだ。生物だけに管理の難しさが課題だが、うまく使えば農家の負荷軽減や収量のアップにつながる。

<span class="fontBold">BT剤は最も普及している生物農薬の一つ。チョウやガの仲間に効く</span>
BT剤は最も普及している生物農薬の一つ。チョウやガの仲間に効く

 草花を育てていると必ずと言っていいほど目にすることになる身近な害虫アブラムシ。テントウムシがその天敵でアブラムシを食べることはよく知られている。

 こうした天敵昆虫をはじめ、微生物や細菌などを活用して、農作物を害虫や病気から守る生物農薬への注目が近年、急速に高まっている。

 農業現場では従来、低コストで高い効果が期待できる化学合成農薬が病害虫対策の柱だった。しかしその化学農薬一辺倒の対策は限界を迎えつつある。1つには土壌や地下水の汚染を懸念した環境規制の強化がある。

 米国の生物学者レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を出版し、残留農薬の危険性に警鐘を鳴らした1960年代当時と比べて、化学農薬の安全性は格段に高まり科学的にも保証されてはいるものの、環境負荷の低減と持続可能な農業を求める声の高まりはそれ以上だ。

化学農薬に環境、耐性の課題

 2010年に欧州連合(EU)が化学農薬への規制強化を打ち出したのを皮切りに、ベトナムやインド、メキシコといった新興国も追随。欧州を中心に利用できる化学農薬は激減している。さらに化学農薬では、繰り返し利用するうちに薬が効きにくくなる“耐性”や“抵抗性”も大きな問題になっている。

 残留農薬規制と薬剤耐性・抵抗性のリスク。化学農薬がこの2つの課題に直面する一方で、両者とは無縁な生物農薬の世界の市場規模は約35億ドル(約3700億円)に達しているとされる。

 国内勢では住友化学のほか、三井物産が01年から米国を拠点に生物農薬事業を世界的に展開している。トーメン(現豊田通商)とニチメン(現双日)にルーツのあるアリスタライフサイエンス(東京・中央)も01年の設立以来、生物農薬を扱っていて、天敵昆虫の分野で存在感がある。

 生物農薬はおおまかに天敵と微生物とに分けられる。天敵で利用するのは昆虫や線虫などで、テントウムシのように害虫を捕食するタイプのほかに、害虫に卵を産み付けて寄生するタイプがある。

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