建築の構造部材に使われる鉄や木、鉄筋コンクリートが驚くべき進化を遂げつつある。建設会社や素材メーカー、研究機関がタッグを組んで、開発や適用を進めている。異なった素材とのかけ合わせや解析技術の駆使によって、古典的な建築材料の可能性が大きく広がりそうだ。

(写真=石川 典人)
(写真=石川 典人)

 2016年の熊本地震のような「大地震の連発」への備えが課題となるなか、建築材料の一つ、鋼材ダンパー(地震エネルギーを吸収して揺れを小さくする装置)では安価で繰り返しの揺れにも耐える製品の開発が進んでいる。

 竹中工務店と物質・材料研究機構(NIMS)、淡路マテリア(兵庫県洲本市)が10年以上の月日をかけてものにしたのが、従来の鋼材の約10倍もの疲労耐久性を持つ「Fe-Mn-Si系耐疲労合金」を芯材に用いた制振ダンパーだ。

 19年8月末にオープンした愛知県国際展示場に初適用した。構造設計を担った竹中工務店名古屋支店設計部構造1グループの梅村建次副部長は、「構造設計者にとっては夢のような材料だ」と語る。

愛知県国際展示場に適用
<span class="textColTeal fontSizeM">愛知県国際展示場に適用</span>
(写真・図=竹中工務店提供)

損傷の蓄積速度が遅い理由

 なぜ一般的な鋼材の10倍もの疲労寿命を持つのか。金属に大きな荷重が作用すると原子の位置が並び変わる。通常の金属だと、逆方向に変形させても原子は元の位置に戻らない。配列の乱れが蓄積すると、亀裂が発生して成長する。これが金属疲労、なかでも低サイクル疲労と呼ばれる現象だ。

 ところが耐疲労合金は、逆方向の変形を受けると、原子が最初の変形とほぼ同じ経路をたどって元の位置に戻る。このため従来の鋼材に比べて損傷の蓄積速度が非常に遅い。合金を設計したNIMS構造材料研究拠点振動制御材料グループの澤口孝宏グループリーダーは、「温度変化で原子が元に戻る形状記憶効果と根本の現象は同じだ」と話す。

 この合金を用いたダンパーは14年に開発済みだが、量産が難しいなどの課題が多く残っていた。そこで開発チームは改良に取り組んできた。その一つが製造技術。14年時点では溶解量が10トンと小さい電気炉で金属を溶かして塊にし、スラブ(床版)状に鍛造した後に圧延して芯材を製造していた。このため大量生産が難しく、鍛造時の傷などが影響して歩留まりが落ち、コストが高くついた。そこで淡路マテリアは、溶融金属を連続的に鋳型に注いで急速冷却しながらスラブをつくる連続鋳造法を採用。あとはスラブを圧延するだけで製造できる。同社の大塚広明・開発グループ部長は「かなり工程を省略できた。1チャージ(1回の溶解量)が60トンなので量産もできる」と語る。

 もう一つの改良点が溶接技術。耐疲労合金はマンガンを重量比で15%も含むため、大量にヒューム(粉塵)が発生して溶接しづらい。また、一般的な溶接ワイヤを使って鋼材と溶接しようとすると、すぐに割れてしまう問題がある。そこでNIMSは、専用の溶接ワイヤを新たに開発した。NIMS溶接・接合技術グループの中村照美グループリーダーは「通常のアーク溶接法で効率を落とさず溶接できるようにした」と説明する。竹中工務店技術研究所建設材料部の櫛部淳道・先端材料グループ長は「技術はなるべくオープンにし、他社を含め広く合金を使ってもらい、市場を広げたい」と力を込める。

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