世界中の自動車メーカーが相次いで電気自動車(EV)の量産モデルを発表している。走行性能や環境性能に注目が集まるが、搭載する蓄電池をうまく活用することで新たなエネルギーインフラにもなる。高容量の蓄電池を生かし、効率的に家庭で電気を使うビークルトゥホーム(V2H)が広がりはじめた。

<span class="fontBold">大容量の蓄電池を搭載する日産のEV「アリア」</span>
大容量の蓄電池を搭載する日産のEV「アリア」

 日産自動車が7月15日に世界初公開したEV「アリア」。発売は来年だが、最も電池容量が大きいタイプでは90キロワット時の電池を搭載する。日産「リーフ」の高容量モデルでも62キロワット時だったので、アリアの大容量モデルでは電池容量はほぼ1.5倍になる。EVにとって電池容量は航続距離に直結する重要な要素。日産は高性能になったEVアリアを巻き返しに欠かせない存在として位置づける。

 90キロワット時の電池容量があるアリアの航続距離は日産の社内測定値で最大610km。航続距離がネックだったEVだが、「電池を水冷式にして充放電しやすくした。前輪と後輪の間も伸ばして電池を置くスペースを確保した」(開発責任者の中嶋光車両開発主管)。

 太陽光発電を屋根の上にのせる住宅などで使う家庭用蓄電池の容量は4~12キロワット時程度。クルマを走らせる電池の持つ容量は大きい。

 日産はEVを家庭の蓄電池として活用する「リーフtoホーム」を消費者に訴えてきた。一般家庭での1日あたりの使用電力量を約12キロワット時とした試算では、リーフの高容量モデルで約4日間、アリアならさらに長い日数の電力を供給できることになる。

 太陽光発電を搭載していない家でも、昼間に車を利用しないならば、安価な夜間電力を自動車に充電し、必要なときに使う。そんな使い方もできるのだ。

 電池容量が大きくなればより可能性は広がる。地震や台風で送電網が壊れたときでもEVがあれば、その電池にある電気が頼りになる。日産は販売会社を通じて、自治体と連携し、災害時のEVの活用を訴求している。

安い夜間の電力で自動充電

 車載電池を使って効率的な電力の利用ができないか。年内に小型EV「Honda e(ホンダイー)」を日本や欧州で投入する方針のホンダは英国でそんな実験に乗り出した。「電力料金が安い時間帯に電力をEVに充電し、その電力を車両や家庭の電力需要に応じて使う「e:PROGRESS(イープログレス)」という取り組みを進めている。

 英国は洋上風力発電など再生可能エネルギーの導入に積極的だ。時間帯によって変動する電力料金を設定している電力会社もある。ホンダはスマートフォン(スマホ)を活用して、電力供給をコントロールするシステムを手掛ける英モイクサ、スウェーデンの電力会社バッテンフォールと組んだ。

 イープログレスの契約者はスマホのアプリケーションに必要な充電量を入力しEVを「Honda Power Charger(ホンダパワーチャージャー)」など自宅の充電器につなぐ。モイクサの「GridShare(グリッドシェア)」システムを通じ、バッテンフォールの変動型電気料金を活用して最も電力コストの安い時間帯に自動的に充電できる仕組みだ。

 ホンダは電力系統と連携し充電・給電が可能な充電器「sospeso & charge(ソスペソ・アンド・チャージ)」も自社で開発している。ロンドンで今年1月から始めた実験ではEVにためた電力を建物に給電することも試している。

 世界で最も量を生産するエンジンメーカーとして発電機も作っているホンダ。充電器の自社開発について、「これまでホンダとしてやってこなかったサービスビジネスとして新しい領域を開拓したい」とライフクリエーション事業本部・新事業推進部・エネルギー事業課の前田直洋主幹は話す。

 EVで先行していたとは必ずしもいえないホンダだが、充電器も独自に開発し、安価な時間帯の電力を効率的に使うことをアピールし、関連サービスを含めてEVを訴求する戦略だ。

<span class="fontBold">ホンダが年内に投入するEV「Honda e」。ホンダは充電器も独自で開発している</span>
ホンダが年内に投入するEV「Honda e」。ホンダは充電器も独自で開発している

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