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新型コロナウイルスの感染拡大は、観客動員を前提とするエンターテインメント業界にも打撃を与えた。公演が中止や延期を余儀なくされるなかで、生命線はインターネット上でのライブ配信だ。妥協の産物に終わらせず、いかにリアルを超える世界を実現するか。サービスを提供する企業は知恵を絞っている。
視聴者の「分身」がイベント会場に
●仮想空間で催されたeスポーツ大会「RAGE」
専用ドーム(下)の入り口から入り、ロビーを通りメインスタジアム(上)にたどり着く。専用ドームの向こうには東京タワーが見える。仮想空間の中に現実が織り交ぜられ、よりリアルさを感じられる

 東京タワーを見上げる芝公園の敷地内に設けられた、国内最大級のeスポーツの大会「RAGE」の専用ドーム。

 入り口を通り抜け階段を下ると、ロビーには選手を紹介するパネルや他の観客の姿が見える。さらに歩を進めてメインスタジアムに入ると、音量たっぷりの音楽が流れ、試合の模様を映しだすための大型モニターが目に入る。周りには観客が大勢いて熱気は十分だ。

 実は、専用ドームもメインスタジアムも仮想空間に作られた世界だ。RAGEはベルサール渋谷(東京・渋谷)で約2000人を収容して3月15日に開催される予定だったが、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めたことから、リアルでの大会中止を決定。仮想空間での大会に切り替え、1万人以上が遠隔から参加した。

自分の「分身」が応援する

 視聴者の参加方法は簡単だ。スマートフォンやタブレット、パソコンから専用のサイトにアクセスする。画面にいきなりメインスタジアムが表れるのでなく、専用ドームの入り口から入っていくところは、よりリアルの世界を感じさせる。

 仮想空間を移動するのは、自分の分身であるアバター。このアバターを基点に、頭上にある吹き出しに選手への応援メッセージを投稿したり、拍手マークなど画面上に表示された複数のボタンを使って感情を表現したりできる。

 さらには、リアルの試合での醍醐味である他の観客との一体感を味わえるのも特徴だ。仮想空間の会場を訪れている他のアバターについて、自分の周辺にいる50人まで視認することができ、互いに会話も可能だ。

 友人が参加していれば仮想空間で落ち合うこともできる。リアルの世界では不可能な屋内での花火の打ち上げもあり、リアルを超えるエンターテインメントが売りだ。

 このサービスのベースとなる技術を展開するのが2015年創業のクラスター(東京・品川)だ。創業者は京都大学大学院の中退後に「引きこもり」だったという加藤直人氏。自分の好きなアイドルのライブに行けないかと思い、仮想空間でのエンターテインメントを提供するビジネスを考え、起業した。

 クラスターの成田暁彦執行役員は、「単に動画を見るのでなく、周りの参加者とも一緒に楽しめる点が支持されている」と話す。もともとエンタメ分野のサービスとして展開し始めたが、最近では、展示会や新製品発表会などでも使いたいという声が増えているという。