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犯罪組織が資金を「洗浄」するマネーロンダリング。疑いのある取引は日本でも増加している。国際的に「対策後進国」と見なされている日本の金融機関も、対策のさらなる強化が急務だ。顧客ごとにリスクを算出する「スコアリング」と呼ばれる手法やAI活用など、IT化がカギを握る。

 「香港の会社に送金してほしい」──。2017年春、四国の第二地方銀行のある支店を訪れた会社経営者は行員にこう依頼した。複数回の取引で送金額は計5億円超。不審に思った銀行側は弁護士などに相談したが、同行の口座を保有し身元確認もできていたため、取引を中断しなかった。香港に送金できないその地方銀行に代わり送金したメガバンクも一連の取引に絡んでいた。

 システム業界内でこんな噂が飛び交ったのは18年のこと。「この話はどうやら本当で、資金は香港の会社を経由し北朝鮮に渡った」。典型的なマネーロンダリングだ。国家間の安全保障問題に発展しかねない事態に地方の金融機関が関与したこの話は、瞬く間に広がった。

検挙数は10年で倍増

 地銀が絡んだ事案では、12年に英HSBCグループが絡んだとされるマネロンに北陸銀行(富山市)が関与した疑惑が浮上(北陸銀は「不自然な取引はなかった」との調査結果を公表し疑惑を否定)して以来のインパクトだった。

 あるシステム関係者は「いまだにこのような不正を防止できないとは信じられない。適正な対応をしていれば防げたはず」と指摘する。マネロンに対する日本の金融機関の危機意識の低さが如実に現れた例だった。

 マネーロンダリング──。「資金洗浄」とも呼ばれるこの言葉は、最近では一般的に知られるようになった。麻薬取引、詐欺、脱税などの悪質な犯罪で得た資金を、出所や本当の所有者が分からないようにするため、他人名義の金融機関の口座などを経由して国内外に送金したり、株や金などの金融商品に変えたりすること。文字通り、「汚れた資金」を一般に扱えるものに「洗浄」する行為だ。

 日本では08年に施行された犯罪収益移転防止法(犯収法)に基づき、金融機関は、口座開設時の本人確認の徹底、マネロンと疑われる取引の国への報告が義務付けられている。警察庁によると、国内でマネロン疑いがある取引は増加傾向にあり、19年が過去最高の44万492件。マネロン犯罪の検挙数は19年が537件と10年で倍増した。手口が巧妙化する中、金融機関はそれに伴う防止策強化が急務となっている。

19年のマネロン疑いのある取引は過去最高に
●警察庁が届け出を受理した件数
出所:警察庁犯罪収益移転防止対策室
(写真=アフロ)

 国際的なマネロン規制を主導しているのが政府間組織の金融活動作業部会(FATF)だ。19年時点で37の国・地域が参加している。1989年の発足当初は麻薬犯罪組織の資金洗浄を防ぐのが主な目的だったが、2001年に発生した米同時多発テロで転機を迎えた。国際テロ組織へ資金が流れてテロが起こることを未然に防ごうと、監視体制強化の姿勢がぐっと強まった。

 FATFは19年10月、日本の金融機関に対してマネロン対策の状況を調べる審査を開始。対日審査は11年ぶり4回目となる。08年の審査では顧客管理の不十分さなどの不備が指摘された。今回も同様の不備が指摘されれば、日本の金融機関の信用力が低下し、海外金融機関との取引に影響が及ぶ可能性もある。

 落第点のレッテルを貼られた金融庁は18年2月、マネロン防止のためのガイドラインを策定し金融機関に対応を促した。そこで注目されたのが「リスクベース・アプローチ」と呼ぶ手法だ。

日経ビジネス2020年6月1日号 72~74ページより目次