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宇宙ビジネスがこれまでにない形に進化している。電波の反射を利用する「SAR」(合成開口レーダー)は、悪天候で雲がかかっていても地表を観測できる。小型化が進んだSARを活用した新たな人工衛星ビジネスが世界各国で勃興している。

 人工衛星による地球観測の技術は進歩し続けている。今や悪天候で雲があっても、日の差さない深夜でも地表を観測できる。レーダーを使って地表を電波で照射し、その反射波から画像を作成する「SAR」(合成開口レーダー)によって実現した。

SAR衛星のイメージ
SAR衛星はアンテナから地表へ向かって電波を発射。その反射波を受信して地表をスキャン(撮像)する。電波は雲を透過するし、SARが放射する電波の出力を調整して撮像するので夜と昼とを問わない

 SARは、使用する電波の波長によってさまざまな対象を観測できる。例えば地下水や地下鉱物の分布なども捉えられる。基本技術自体は1950年代から開発されていたが、最近の技術革新で小型軽量化が進み、重量が100kg級で低コストの小型衛星にも搭載できるようになった。資金力が小さいベンチャー企業でもSAR衛星を製造し、打ち上げて衛星ビジネスに参画できる可能性が出てきた。

電波によって観測

 地球上を回る軌道から地表や海表面を見下ろし地球の表層の状況を観測するのに用いるセンサーを大別すると、太陽光の反射などを使う「受動的センサー」と、衛星が自ら電磁波を放射してその反射を観測する「能動的センサー」に分けられる。

 受動的センサーの代表が「光学センサー」だ。地表面が反射する可視光や赤外光を観測して画像を得る。

 能動的センサーの代表例が「レーダー」だ。本稿で取り上げるSARもレーダーの一種だ。発した電波で地表を照射し、その反射波から画像を作成する。SARが雲の有無や太陽高度とは関係なく、いつでも撮像できるのは、自ら発した電波の反射波を使っているからだ。電波は雲を透過するし、SARが能動的に電波を放射して撮像するので夜と昼とを問わない。これがSARの最大の特長だ。

JAXAのSAR衛星「だいち2号」
前号機のだいちは2基の光学センサーと1基のSARで地表を観測していた。だいち2号はSARのみ搭載。観測の頻度を向上させている。搭載しているSARは、新たに開発された。分解能はだいちの3倍以上だ。災害状況の把握や森林分布の把握、地殻変動の解析など、さまざまな目的で使われている(画像=JAXA提供)

 レーダーは使用する電波の波長によって見える対象が変わる。光よりも波長がはるかに長い電波を使うレーダーは、人工衛星に搭載できるサイズでは十分な解像度を得られない。そこで、2つ以上の異なる観測位置から同一対象を観測したデータを用意する必要が出てくる。これらのデータを使って干渉演算を行うと、2つの観測位置間の距離と同じサイズの超大型アンテナと同等の解像度のデータが得られる。

 複数位置から同一地点を観測したデータを収集するために使うのが、高速に移動できる航空機や衛星だ。SAR衛星は地球を回る衛星軌道を高速で移動しながらパルス電波の放射とその反射波の受信を繰り返し、多数の観測位置から同一地点の観測データを得る。

SARで撮像した伊豆大島
JAXAが打ち上げただいち2号に搭載されているSAR「PALSAR-2」が撮像した伊豆大島。2013年10月の台風26号の大雨による土砂崩れの模様が写っている(画像=JAXA提供)
日経ビジネス2020年5月18日号 58~60ページより目次