全3761文字

ビタミンやミネラルなど必要な栄養素を1品に凝縮した「完全栄養食」が日本でも広まり始めた。米シリコンバレーでブームになり、忙しい中でもバランスの良い食事をしたいビジネスパーソンに受けている。在宅勤務や一斉休校の広がりにより、簡単かつ栄養バランスの良い常備食としても注目を集めそうだ。

(写真=左:mon printemps/amanaimages、右:shutterstock)

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、在宅勤務中のビジネスパーソンや自宅にいる子供でも簡単に調理できるような食品のニーズが高まっている。冷凍食品やレトルトカレーなどの引き合いが強いが、栄養バランスが気になるという消費者も多いだろう。

 そんななか、新たな商品分野が注目を集めている。1品で必要な栄養素を摂取できる「完全栄養食」だ。

 食物繊維は1.2倍、カルシウムは2.9倍、ビタミンCは4.9倍──。日清食品は2019年3月、厚生労働省が策定する「日本人の食事摂取基準」を大幅に上回る栄養素を含んだ「All-in PASTA(オール・イン・パスタ)」を発売した。

 たんぱく質や食物繊維に加えて、ビタミンCなど13種類のビタミンと、カルシウムなど13種類のミネラルを配合。これらの栄養素の量は厚労省の基準値を満たしており、「このパスタ1品で、1日に必要な栄養素の3分の1を摂取できる」(同社)という。

シリコンバレーでブームに火

 完全栄養食ブームの発端は13~14年にかけての米シリコンバレーだ。現地のITエンジニアたちが共同で開発した粉末タイプのドリンク「soylent(ソイレント)」が発売されると、食事時間を惜しんで働く現地のエンジニアたちの間で広まった。

 ソイレントは大豆たんぱく質をベースに、28種類の栄養素を含む。粉末タイプのドリンクから始まったが、今ではそのまま飲めるドリンクや、スナックバータイプもあり、味もチョコレートやチャイなど複数展開。ウォルマートやターゲットなど大手小売りを含む約2万店で販売されている。

 15年には英国で、完全栄養ドリンク「Huel(ヒュエル)」が発売された。オーツ麦やえんどう豆、ココナッツなどを含み、26種類の栄養素を摂取できるものだ。これまでに世界約100カ国で1億食を売り上げた。

 欧米を中心に市場が広がる中、日本の食品業界でも成熟する国内市場における数少ない有望分野として参入する企業が出始めた。

 その1社が冒頭の日清食品だ。海外で流行している完全栄養食はドリンクタイプのものが多いが、日清食品は自社の製麺技術を生かした麺タイプの完全食を手がける。

 オール・イン・パスタの特徴は、麺の外側を小麦で覆い、中に栄養素を閉じ込めていることだ。こうすることで、ゆでても栄養素が流出しにくく、苦みなどを感じにくくした。

 製麺には、即席麺「日清ラ王」で培った技術を生かした。栄養素の層を小麦ベースの2層で挟み、薄く引き延ばした後、麺状に細く切る。切断すると上下の小麦の層が曲がり、栄養素を包み込む仕組みだ。小麦と違って栄養素の層は薄く延ばすのが難しい。小麦の層の強度を高めたり、生産設備を微調整したりして延ばせるようにした。

即席麺「ラ王」の製麺技術を応用
●日清食品の「All-in PASTA」の製造法
日経ビジネス2020年4月6日号 64~66ページより目次