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スイッチなどの操作が不要で、運転者が話すだけでクルマの各種機器を操作できる技術が普及し始めた。先行するのはドイツメーカーで、対話型AI(人工知能)を搭載した市販モデルを相次ぎ投入している。一方でトヨタ自動車やホンダは欧州勢に比べ出遅れ気味。量産車に搭載するためのコストダウンなどが課題だ。

 「なんかちょっと寒いなあ」「では24度にします」──。運転者とクルマの間でこのような会話ができるようになってきた。実現を支えるのは、対話型のAI(人工知能)機能だ。この対話型AI機能を備える車載用インフォテイメントシステムが普及しだした。

 対話型AIの搭載は一時的なブームで終わらないだろう。自動車メーカーの巨人、独フォルクスワーゲン(VW)が、量産車での搭載に踏み切ったからだ。2020年以降、ユーザーへ広く浸透する可能性がある。

BMWなどドイツ勢が先行

 対話型AIを搭載する動きは、欧州の自動車メーカーで活発だ。日本市場では18年10月に独ダイムラーが発売した小型ハッチバック「メルセデス・ベンツ Aクラス」や、19年1月に独BMWが発売したセダン「3シリーズ」などがけん引役となり、対話型AIのインフォテイメントシステムの認知度が上がった。一部オプションでの扱いもあるが、メルセデス・ベンツ、BMWともに搭載車種を増やしている。

 特にユーザーの関心を高めるきっかけとなったのが、「ハイ、メルセデス」と話しかけるシーンを紹介した、メルセデス・ベンツのテレビCMだ。クルマと会話をすることでエアコンや車内のイルミネーションを操作するというもの。人気声優を採用した同CMが功を奏し、「“ハイ、メルセデス”のクルマはありますか?」と販売店にやって来る顧客もいるほどだ。

 そのタイミングを見計らったかのように、VWが動いた。19年12月にドイツで発売した新型「ゴルフ」で対話型AIを搭載したのだ。メルセデス・ベンツやBMWと同様、会話することで車載機器を操作できる。

 VWが対話型AIを搭載したインパクトは大きい。世界レベルで見ると、同社のゴルフは量産車として人気を集めている。その車種に搭載したということは、多くのユーザーが認知する機会が一気に高まることになる。

 日本市場ではゴルフは輸入車という位置付けのため、大衆車ほどのインパクトはないものの、認知を広めるきっかけになるだろう。新型ゴルフの日本への導入時期は未定だが、20年中に市場へ投入される可能性が高い。日本でも「最新のクルマには、対話型AIが搭載されていて当たり前」との認識がユーザーに広がる可能性がある。

 日系の自動車メーカーが開発する対話型AIは、今どの段階に来ているのだろうか。

 残念ながら量産車のレベルでは、欧州の自動車メーカーと比べ日系メーカーは遅れている。国内向けのクルマでは、独自のカー・ナビゲーション・システムを中心に据えたインフォテイメントシステムが主流になっている。このため、音声認識機能を使いカーナビを操作したり、スマートフォンとの連携ができるものはあるが、対話型AI搭載をうたう車種は見当たらない。

日経ビジネス2020年3月23日号 88~90ページより目次