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国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」をIT活用で達成しようとする動きが広がっている。社会課題の解決は「ビジネスの種」であり、採算度外視の社会貢献活動でない。最新のデジタルテクノロジーを活用した、先行企業の取り組みを紹介しよう。

 国際連合は2015年9月に「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といった17の目標(ゴール)を30年までに達成すると宣言した。各ゴールには10個前後のより具体的なターゲットを定めた。「貧困をなくそう」であれば、「30年までに極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」といった具合だ。極度の貧困とは、人が1日1.25ドル未満で生活する状態と定義されている。

 デロイトトーマツコンサルティングはSDGs関連ビジネスの市場規模が、17のゴールごとに70兆~800兆円に達すると試算している。巨大市場をSDGsが生み出そうとしている。

使った水の98%を再利用

AIを使って水処理を効率よく
●「ウォータ・ボックス」を国内の被災地に設置した様子
(写真=ウォータ提供)

 SDGsの目標の一つである「安全な水とトイレを世界中に」の達成に貢献しそうなスタートアップが、WOTA(ウォータ)だ。同社は19年に小型の水循環装置「ウォータ・ボックス」の出荷を始めた。シャワーなどの排水をウォータ・ボックスに通すときれいな水になり、98%以上が再利用できる。100人がシャワーを浴びても100リットルしか水を消費しない。通常なら100リットルの水は、2人がシャワーを使うだけでなくなってしまう。

 ウォータ・ボックスは不純物を取り除く複数のフィルターと水質を計測するセンサー、水を送り出すポンプやバルブなどで構成される。水質に応じて水を流す圧力やフィルターの種類を自動制御することで浄化効率を上げている。鍵を握るのがAI(人工知能)だ。フィルターを通る前と後の水質を比較して、最も浄化効率が高まる制御法を導いたり、装置の異常を検知したりする。ウォータの前田瑶介COO(最高執行責任者)は「ウォータ・ボックスを使うことによって、水道に頼らなくても生活用水を供給できる仕組みを作る」と意気込む。

食料危機に水産養殖で挑む

魚への餌やりをAIが最適化
●いけすに「ウミトロンセル」を設置した様子
(写真=ウミトロン提供)

 SDGsは「飢餓をゼロに」を目標に掲げ、「持続可能かつ強じんな農業の実現」を訴える。スタートアップのウミトロンはたんぱく質の貴重な供給源である水産養殖を変えようとしている。

 ウミトロンはAIやIoT(モノのインターネット)を駆使して、高効率で環境負荷の低い水産養殖に挑む会社。主力は養殖魚の餌やりを支援するスマート給餌機「ウミトロンセル」だ。タンクに入れた餌の投下や停止をスマートフォンから遠隔操作できる。タンクの底面にはカメラを備え、撮影した魚の映像からAIが餌への食いつき具合を分析する。スマホの専用アプリケーションを通じて、生産者に餌を止めるタイミングを知らせる。

 魚の餌への食いつき具合は「その日の水温や気候などによって変わる」(ウミトロンの佐藤彰子マネジャー)。生産者はこれまで毎日いけすに通い、経験や勘に基づいて餌やりをしていた。その判断をAIが担うわけだ。