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主観に頼るしかなかった味覚をデータ化し、メニューの提案などビジネスに活用する動きが広がっている。舌の機能をセンサーで再現した装置や、味わいと密接に関わる香りを定量化する技術など各社は工夫を凝らす。多様化する消費者の嗜好性を満たし、「食のパーソナライズ化」へとつながる可能性を秘める。

舌を模倣した味覚センサー
●人間の味の感じ方と味覚センサー「レオ」の仕組み

 「ビールと枝豆」「赤ワインと肉料理」。こうした定番の組み合わせ(マリアージュ)も、「なぜおいしく感じられるのか」という根拠は知らない人がほとんどだろう。

 食品や飲料の「おいしさ」は、人の主観に依存している。どの食べ物にどんな成分が入っているのかは研究対象となってきたが、最近では「おいしさ」を可視化する技術をビジネスに生かす取り組みが広がりつつある。

味覚センサー「レオ」。分析結果はマーケティングでも効果を上げている

 「味覚やマリアージュに科学的な根拠があれば、それをマーケティングに生かすこともできる」。こう語るのは慶応義塾大学発のスタートアップ企業、AISSY(アイシー、東京・港)の鈴木隆一社長だ。同社は食品に含まれる呈味成分(味を感じさせる原因物質)を測定し、味覚の基本となる「甘味」「苦み」「酸味」「塩味」「うまみ」の5種類を人工知能(AI)でデータ化する味覚センサー「レオ」を開発。これまで食品の分析サービスを200社以上に提供した。

AIで人の感覚を再現

 人の舌には味を感知する「味蕾(みらい)」が備わっており、この器官にある受容体が5種類の味を神経を通じて脳に認識させる。味覚センサー「レオ」では、「舌」の役割を果たすセンサーが食品に含まれる呈味成分を数値化したのち、脳の神経機能を模倣したAIによる情報処理方法「ニューラルネットワーク」で解析し、「人がどう感じるか」を推定してデータ化する。

 アイシーのサービスは大手食品・飲料メーカーからも注目を集め、実際に商品マーケティングに生かされた事例も数多ある。例えば、2016年にはキリンビバレッジの「生茶」がレオの測定した数値を基にマーケティングを展開した。サッポロビールは20年2月からレモンサワー「レモン・ザ・リッチ」の販促に、アイシーが提供したデータによる飲料と食品の「相性度の数値化」を取り入れている。

 サッポロは自社でも味を数値化する技術を持っており、商品開発の段階から他社製のレモンサワー飲料との違いを意識してはいた。「自社調べ」といった表示は顧客が感じる信頼性に課題が残るため、第三者から見た商品の特徴を顧客に訴求することを狙った。

 その結果、相性度が特に高いと分かったのが「唐揚げ」。甘味、酸味、苦みに特徴があるレモン・ザ・リッチ(濃い味レモン)との相性度は98.8点と非常に高かった。レオの測定では相性度が90点以上が多くの人が「おいしい」と感じる基準になるとされる。「ビールと枝豆(92.8点)」や「赤ワインとステーキ(94.0点)」も同水準を上回っているが、レモン・ザ・リッチと唐揚げはそれらの組み合わせを大きく上回ることが判明した。