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利用者の転落・接触事故を防ぐため、主要駅のプラットホームで設置が進むホームドア。一方でホームの補強工事なども必要となり、工期の長さや設置コストの高さが普及のネックになっている。多様な車両に対応できるようにしたり、軽量化で設置しやすくしたりするなど、新工法が相次ぎ生まれている。

 スイッチを押すと「ふすま」のようなパネルがいくつもに分かれて動き出し、通路が開く。再度スイッチを押すと先ほどとは違うパネルが動き、別の場所が開く──。

60パターンの多様な乗車位置に対応
●JR西日本グループが開発したホームドア

 これはJR西日本グループが開発する次世代型ホームドアの試作機。従来のホームドアと違うのは、それぞれの戸袋が左右に自在に動き、開口部の広さや位置を自由に変更できる点だ。車両側のIDタグをホーム側で読み取り、車種や編成によって変わる乗降口の位置に合わせて自動でドアが開く。

 強化ガラスの「子扉」だけでなく、それらを収納するデジタルサイネージ付きの「親扉」も移動するタイプは世界で初めてだという。

車両に応じて開口部が動く

 JR西は、大阪駅(大阪市北区)北側の再開発地域で2023年開業予定の地下駅にこのホームドアを設置する予定だ。この駅では、多様な列車が同一のホームを使用する。戸袋部分が固定されたタイプのホームドアでは対応が難しいため、新型の開発に乗り出した。

 扉を上からつり下げ、駆動を制御する機器やケーブル類を上部に収納することでホーム側からメンテナンスをしやすくした。ドアのホーム側と線路側にセンサーを設け、乗客と扉との衝突や線路側への取り残しを防ぐ機能も盛り込む予定だ。

 都市部の主要駅で多く見られるようになったホームドアの多くは「腰高式」と呼ばれる。JR西が開発した次世代型は天井部分からホームと線路側を仕切るフルスクリーン型のため、線路への立ち入りが防げる利点もある。

 ただ、全面を仕切ることなどから設置コストは従来型よりも割高になるなど、他駅での整備は「現在のところ予定していない」という。

乗り場ごとの整備率は3割程度
●利用者10万人以上の駅のホームドア整備率

 全国ではホームからの転落や電車との接触といった事故が年間約3000件発生している。視覚障害者の転落も多く起こっており、国土交通省は鉄道各社にホームドア設置を呼びかけている。

 ただ整備は思うように進んでいない。混雑などのために事故が起こりやすく、ホームドアの優先整備の対象となっている1日当たりの平均利用者10万人以上の駅で見ても、18年度までに整備された乗り場は3割に満たない。

 ホームドアを設置すれば、鉄道会社にとっては事故抑止による定時運行や信頼性向上が期待できる。それでも普及が進まない最大の理由がコストだ。

 ホームドアの設置には一般的に、1駅(上下2線分)数億~十数億円かかるとされる。ホームドアの重さや負荷に耐えられるようホームの改良工事が必要で、時間帯が深夜などに限られることから工期は1年以上に及ぶため人件費などが膨らむ。「業績に直結する投資ではないだけに経営判断が難しい」(関係者)との声もある。

 そうした中で設置のハードルを下げようと、JR西グループのように多様な車種に対応したドアのほか、設置費用を抑えた製品が登場している。

日経ビジネス2020年2月10日号 80~82ページより目次