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総合商社が参入したり、多額の投資マネーが流れ込んだりと、サーモンの陸上養殖に注目が集まっている。畜産よりも環境負荷が小さく、海での養殖に適した場所が不足する中で食料危機対策の切り札として期待される。実証実験から商用化に進む段階にあるが、コスト高をはじめ乗り越えるべき課題もある。

 千葉県木更津市の山中。雑木林が広がる工業団地の一角に1棟の工場がある。生産されているのは、通常なら海で養殖されるトラウトサーモンだ。

 ここは三井物産が約85%を出資するFRDジャパン(さいたま市)のプラント。大小いくつものプールが並び、水道水から作った人工海水を複数のバクテリアでろ過しながら循環させて、1年半をかけてトラウトサーモンを3kgの大きさに育てている。

千葉県木更津市のFRDジャパンのプラントでは、水道水から作った人工海水をろ過し続けることで、水の入れ替えをしないで、トラウトサーモンを生産している

 2013年設立のFRDジャパンはもともと水槽のろ過装置などを手掛けていたが、17年に三井物産が資本参画し、サーモンの陸上養殖に乗り出した。19年6月には初出荷にこぎ着け、千葉県内のスーパーや飲食店で試験販売も実施。年間30トンの生産を目標とした実証実験の次に目指すのは年間1500トンの生産だ。取締役COO(最高執行責任者)の十河哲朗氏は「将来的にはスーパーの物流施設の隣にプラントを設置できるようになる。流通や小売りが大きく変わる」と力を込める。

人工肉に並ぶ新タンパク源に

 サーモンの陸上養殖に対する関心は世界で急速に高まっている。米フロリダ州では北米全体の需要を賄える9万トン規模のプラント建設計画を打ち出したノルウェー起源のアトランティックサファイアが多額の投資を集め、企業価値は1000億円近くになっている。

 シンガポールの投資ファンドが出資するピュアサーモングループは20年代後半に全世界で26万トンを生産する目標を掲げる。日本法人のソウルオブジャパン(東京都港区)は5月にも、三重県津市でグループ初となる本格的なプラントを着工する予定で、伊藤忠商事が国内販売を担う計画だ。

サーモンは生産量が多く、単価も高い
●世界の主な養殖魚
注:コイ類を除く
出所:国連食糧農業機関(FAO)

 サーモンの陸上養殖が注目を集めるのは、食料危機が現実味を帯びているからだ。世界の総人口は現在の76億人から50年には98億人に達する見通しで、今後10年以内に「タンパク質危機」が顕在化すると懸念されている。

 新興国では肉の消費が伸びているが、畜産には飼料として膨大な穀物が必要だ。畜産のために森林が切り開かれ、家畜が排出する大量のメタンガスが温暖化につながるなど環境負荷も大きい。

 魚類の養殖はメタンガスが発生しない上に、大豆の搾りかすなどを活用して飼料に占める魚粉の比率を下げる試みも進む。環境負荷が小さく、人工肉や培養肉の技術と並んで、タンパク質危機対策の切り札として期待されている。

 しかし、従来型の養殖では適地不足がボトルネックになっている。世界の天然漁獲量は1986年に8000万トンを突破して以来、ほぼ横ばいで推移。代わりに需要を支えてきたのが養殖だが、沿岸の適地は残り少ない。