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船舶の排ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)の排出量が規制されるなど、海運にも環境規制の波が到来している。2050年には二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガスの排出量を半減させる予定で、抜本的な対策が必要だ。造船メーカーだけでなく、海運企業も巻き込み、次世代の環境にやさしい船づくりが始まっている。

帆で受けた風力を揚力に変換し、船の推力にする
●商船三井と大島造船所が開発した帆を持つ船の概要と仕組み

 帆で風を受けて、船を走らせる──。15世紀からの大航海時代を彷彿させるような帆を搭載した大型運搬船が、2022年にも世界の海原を行き来するかもしれない。

 この船を開発したのは、商船三井と大島造船所だ。半円柱状の帆は繊維強化プラスチックでできている。風向きと垂直方向に発生する揚力を推力に変えることで、船を前に進める仕組みだ。

 帆は風向きや強さによって角度を180度変えたり、高さを伸縮したりすることができる。船の大きさによって、帆を増設することも可能だ。船の動力として風力も加えることでエンジンの出力を下げることができ、CO2など温室効果ガスの削減ができるという。

帆1本で温室効果ガス5%減

 商船三井によると、10万トンの石炭を運搬できる船に帆を1本搭載した場合、日本とオーストラリア間の航路で温室効果ガスを約5%削減できるという。商船三井の技術イノベーションチームの大西暢之チームリーダーは「バルクキャリア(ばら積み貨物船)やタンカーなどの大型外航船を中心に搭載の検討を進める」と話す。

 川崎汽船も船首部に取り付けた大型のたこを推進力にする運搬船の開発を進めるなど、風を活用する動きは広がっている。商船三井の大西氏は「自然エネルギーを活用しないと、将来的な環境規制への対応が難しくなっている」と背景を説明する。

 国際海運における環境規制が厳しくなったのはここ10年ほどのこと。業界関係者は「公海上では、どの国の船がどれだけの温室効果ガスを排出したのかわからず、誰が責任を持つかなどの議論が進んでいなかったため規制強化が遅れていた」と指摘する。

 2000年ごろには船舶の排出ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の排出量の規制が段階的に強化されたが、この規制は新しく建造される船がベースで既存船は規制の対象外。環境規制強化の動きは緩やかだった。

国際海運の船舶への環境規制は強化の方向だ
●IMOが予定する主な船舶の環境規制

 そうした状況が変わるきっかけの一つとなったのは、2009年に国際航空の分野でCO2の排出規制の議論が始まったことだといわれている。それまでは国際海運と同様に環境規制強化が遅れていた航空分野での議論が活発になったことで、海運も規制強化の波に乗らざるを得なかったというわけだ。

 それからの国際海事機関(IMO)の動きは早い。11年に合意した規制では、「新造船のCO2排出量を25年までに当時の平均値と比べて30%削減する」ことを目指した。さらに16年には全船を対象に燃料に含まれる硫黄分の上限が引き下げられるSOx規制が採択され、船舶からの温暖化ガスの排出量を50年までに08年に比べて半減する戦略が18年に採択された。

 これらを達成するには船の基本構造の見直しが必要不可欠。「これまでは船の形の改良で環境規制強化に対応していたが、それだけでは限界にきている」(商船三井の大西氏)。各社が新たな技術開発を急いでいるのはそのためだ。

日経ビジネス2019年11月18日号 78~80ページより目次