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VR(仮想現実)の技術が進化。ビジネスに導入する企業が増加している。中には、VRによって安全教育の効果を高めようという会社もある。顧客サービスでは、VRによる大迫力の野球観戦が登場している。

 調査会社のIDC Japanは世界市場におけるVR・AR(拡張現実)のハードウエアとソフトウエア、関連サービスを合計した支出額が2018年は89億ドル(1ドル108円換算で9612億円)だったと試算。19年は168.5億ドル(同1兆8198億円)と2倍近くに伸び、23年には1606.5億ドル(同17兆3502億円)と18年比で18倍に達すると予測する。

 同社によるとその内訳は、ゲームやビデオなどを含む消費者向けのVR・ARよりも、法人向けの用途が世界市場をけん引する見込みだという。同社の菅原啓シニアマーケットアナリストは「ハードウエア・ソフトウエアに加えて、システム開発やコンサルティングを含む関連サービスの規模が大きくなるだろう」と説明する。

社員の安全意識を高める

 VRで恐怖体験を味わわせ安全意識を高める──。そんな取り組みが広がっている。

 「それでは1回落ちてみましょう」。インストラクターに言われてVR用HMD(ヘッドマウントディスプレー)を装着すると、目の前に扉が開いた状態のエレベーターが現れた。実は扉の枠の向こうには人を乗せるカゴが存在しない。エレベーターに向かってゆっくり進み扉の枠を越えると、何もない空間を踏み抜き落下。地面にたたきつけられ、赤色が視界いっぱいに広がった。

トラブルをVRで体験
●三菱電機がエレベーター工事の安全研修で使うVR画面
(写真=三菱電機提供)
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 これは三菱電機のエレベーター作業者向け研修に取り入れたVRシステムの一例だ。建物へのエレベーターの設置・納品などを担う据え付け工事の作業者が対象で、1人ずつこうした体験をする。転落事故のほかカゴの下部と建築物に挟まれる事故、カゴ上部と建築物に挟まれる事故のVRコンテンツを研修に使う。ビルシステム工事統括部で工事教育センター工事研修第2G専任の下林穣氏は「建築現場で人体に危険が及ぶ可能性のある研修は困難。そこでVRを使うことにした」と話す。

 同社は据え付け工事の研修センター「匠」を今年4月に愛知県稲沢市に新設しており、作業者はここでVRを体験する。国内の新人は従来5~6年の期間を経て職長になっていた。しかし、VRを含む研修センターを利用することで「育成スピードを1年半ほど短くできる」(夏目隆ビルシステム工事統括部工事教育センター長)。

日経ビジネス2019年9月23日号 74~76ページより目次