複数のトラックをあたかも鉄道のようにつなげて走る隊列走行の実用化が近づいている。ドライバーの不足・負担の軽減や燃費改善効果が期待され、官民挙げての実証実験が進む。人による運転を前提とした法律の改正や専用レーンの整備などが課題になりそうだ。

後続車が有人か無人かで、大きな隔たりがある
●トラックの隊列走行の方式の違い
後続車が有人か無人かで、大きな隔たりがある<br /><span class="fontSizeXS">●トラックの隊列走行の方式の違い</span>
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 3台の大型トラックが一定の車間距離を保ちながら、日本の大動脈である新東名高速道路を時速80kmで駆け抜けていく──。

 経済産業省と国土交通省が主体となり2018年12月に実施された、高速道路でのトラックの隊列走行の実証実験だ。隊列走行とは、複数のトラックが走行状況を共有しながらあたかも鉄道のように一体となって走る技術。前方を走る車のブレーキやアクセルのタイミングを後続車に伝えることで、車間距離を一定に保ちながら走行する。「実現すればドライバーの負担軽減につながるため、効率的な物流網を構築できる可能性は高い」。日本自動車工業会の大型車技術企画検討会で主査を務める小川博氏はこう話す。

 長距離を走ることが多いトラック運転手の労働環境は過酷だ。運転手不足や人件費の高騰を背景に、物流費の値上げや物を運べないといった「物流危機」が日本全体に広がっている。

 隊列走行が注目を集めるのも、こうした社会課題の解決につながるとの期待があるため。細かなハンドル操作がいらない運転支援があればドライバーの疲労を軽減でき、後ろに続く車両の運転が不要になれば運転手不足の解消にもつながる。一定の速度を保ち後続車の空気抵抗が減ることから、特に海外ではトラックの燃費軽減につながるとも期待されている。

 では、どのようにして隊列走行を実現するのか。国内で実験が進む隊列走行には主に2つのタイプがある。

 運用面でのハードルが低いとされるのが、日野自動車や三菱ふそうなど商用車4社が取り組む「非電子けん引」と呼ばれるもの。後続車にも運転手が乗る「有人」の隊列走行だ。

 非電子けん引では前方のトラックのアクセルやブレーキの制御情報を車車間通信を使い後続車に配信する「協調型車間距離制御装置(CACC)」を使う。この仕組みによって車間距離を柔軟に調整できる。いわば車同士が通信を使って「会話」するかのごとく、後続車に加速と減速のタイミングを伝えることで、後続車は有人ではあるが人による主体的な操作なしで車間距離を一定に保つ。

<span class="fontBold">経済産業省や国土交通省、日野自動車、豊田通商などは高速道路での隊列走行の実証実験を行った</span>
経済産業省や国土交通省、日野自動車、豊田通商などは高速道路での隊列走行の実証実験を行った

 18年に行われた実証実験では、車線維持支援装置(LKA)と呼ばれるシステムも活用した。これはトラックの前方中央部についたカメラで道路上の白線を認識し、それに沿ってハンドルを自動操作することで後続車のドライバーの運転負荷を軽減できる。ただインターチェンジの入り口など白線が薄くなった場所では起動しないケースもあるため、「今後は道路やインフラ側との連携も欠かせない」(日野自動車)。

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