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次世代通信規格「5G」とエッジコンピューティングの導入で、クルマの“頭脳”は「遠隔型」に移りつつある。これは「自律型」で先頭を走るシリコンバレー勢を突き崩す契機になるかもしれない。国内では、家電メーカーなどが積極的に動き始めた。

遠隔運転ができるソニーの自動運転車
●東京から沖縄のクルマを運転する実験を実施
(a)車両のベースは、ヤマハ発動機の自動運転ゴルフカートだ。(b)車両に搭載した4個のソニー製4Kカメラで周囲を撮影している様子。(c)沖縄の車両を東京から遠隔で操作(写真=ソニー提供)

 自動運転車をめぐっては現在、“頭脳”にあたる部分をクルマに搭載する「自律型」が主流だ。自律型の場合、クルマ単体で基本機能の全てを完結する一方、その分のコストがかさむ。このため、クルマの販売価格が3000万円前後と極めて高くなるとみられている。

 これに対して、このところ進んでいるのがクルマの頭脳をクルマの外に移す「遠隔型」の開発だ。その原理はスマートフォン(スマホ)を考えると分かりやすい。スマホは多くの機能をクラウドに移して端末の負荷を軽くしたことで手ごろな価格で多くのサービスを実現している。同じようにクルマの遠隔型では多くの機能を外に移すことでコストの引き下げを図る。

ソニーとパナソニックの試み

 遠隔化をめぐっては国内の家電メーカーの積極的な動きが目立つ。例えば、クルマの門外漢に近いソニーはこのところ自動運転車の開発に挑む。ソニーは無料と有料を組み合わせた「フリーミアム」を持ち込む構想を描く。ここでは“移動”を無料にする一方、車内で過ごす“体験”を有料にする計画だ。

 「移動フリー」の布石になり得るのが、“スマホカー”実験で試している遠隔運転だ。自動運転の“頭脳”が遠隔側に移れば端末側の車両の装備を省けるため、価格破壊を引き起こす可能性がある。

 ソニーは2018年、4G(第4世代)移動通信「LTE」を使い、東京都にいる人が沖縄県の車両を遠隔で運転する実験に成功。19年にはNTTドコモと5G(第5世代)を使って日本とグアム間で遠隔運転する実験を始める。いずれは「遠隔の人ではなくAI(人工知能)が運転するかもしれない」(ソニーAIロボティクスビジネスグループ商品企画部担当部長の江里口真朗氏)。

 パナソニックの場合も、自動運転車の開発を率いる臼井直記氏が見据える先はソニーと似ている。パナソニックでは自動運転車の価格を自律型の100分の1の30万円にする「ライフカー」の実現を目指す。

 ライフカーとは、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏がパナソニックの創業100周年記念講演で提案した構想だ。柳井氏は低価格で良質なものを大量に供給する松下幸之助氏の「水道哲学」にならい、30万円の自動車を実現するように激励した。

パナソニックの自動運転車。プラットフォームとアッパーボディーを分けている点に特徴がある。顧客の需要に合わせてボディーを“着せ替え”できる(写真=パナソニック提供)

 パナソニックが18年に提案した自動運転車「SPACe_C(スペースシー)」は、ライフカーへの一里塚になる。臼井氏の一案が、高価なセンサー機能を遠隔側に移すこと。例えば現状で数十万~数百万円するLIDAR(赤外線レーザースキャナー)を本体から省く。その代わり遠隔側の計算機にLIDARのデータを集めて街中を走るクルマの間で共有。すると「1台にLIDARがあれば、他の車両にはいらなくなる」(臼井氏)。

日経ビジネス2019年7月1日号 66~68ページより目次