全3450文字

世界的な人口増や新興国の所得水準向上を背景に、肉や魚が不足する「タンパク質危機」が懸念されている。新たなタンパク源として脚光を浴びるのが、植物などを原料として生産する「人工肉」だ。欧米で広がる菜食主義や健康志向も追い風となり、地球全体の課題が食のイノベーションを生んでいる。

5月に上場した米ビヨンドミートが商品化した植物由来のソーセージ(写真=ロイター/アフロ)

 世界の総人口は現在の76億人から2050年には98億人に達する見通しで、食糧危機が懸念されている。それよりも早い25~30年ごろに到来すると予想されているのが「タンパク質危機」だ。

 新興国や発展途上国では、所得水準の向上に連れて肉や魚の消費量が急増している。畜産や養殖には飼料として膨大な量の穀物や魚粉などが必要だが、耕作地には限りがあり、漁業資源も枯渇の危機にひんしている。その結果、飼料の供給が追い付かなくなり、肉や魚の需給が逼迫する事態が懸念されているのだ。

 畜産のために森林が切り開かれ、家畜が排出する大量のメタンガスが地球温暖化の一因としてクローズアップされるなど、食肉生産に伴う環境負荷も社会問題になっている。

エシカル消費も追い風に

 こうした流れを受けて注目されているのが、植物由来の原料や細胞培養技術などを用いて作る「人工肉」や「疑似肉」と呼ばれる技術だ。

 人工肉が注目される背景には、世界的なエシカル(倫理的)消費の潮流もある。欧米を中心に菜食主義や動物由来の原料を含む製品を一切消費しない「ビーガン(完全菜食主義)」と呼ばれる人が増えており、生き物を殺傷せずに“肉”を食べたいというニーズが広がっている。

 この分野で代表的な企業が、09年に創業した米スタートアップ企業のビヨンドミートだ。大豆などを原料に植物由来のパティやソーセージを開発・製造する同社は5月にナスダック市場に上場。19年12月期の売上高が前年同期の2.4倍となる見通しを発表したことで同社への成長期待が高まり、株価は上場から1カ月余りで公開価格(25ドル)の約6倍に跳ね上がった。

 米国では11年創業のインポッシブル・フーズも植物由来の人工肉で注目を集める。風味の元になる「血の味」を大豆の根から鉄分を含む成分を抽出することで再現。米バーガーキングがハンバーガーのパティに採用し、早ければ年内にも全米で販売する見通しだ。

 人工肉のビジネスは、日本でも拡大している。大手食品メーカーやハンバーガーチェーンなどが、相次いで大豆由来の人工肉を使った商品を発売している。その陰の立役者が、大豆油などの食品原料を手掛ける不二製油(大阪府泉佐野市)だ。