トヨタ自動車系列の販売店で車検や個人情報の取り扱いを巡る不正が相次いだ。トヨタの競争力を支えてきた「現地・現物」を見据える力に陰りが見える。

 トヨタ自動車の豊田章男社長は昨年5月に開催した2020年3月期の決算会見で、トヨタがものづくりの基本姿勢として掲げてきた、「現地・現物」主義を再確認することの大切さを強調した。様々な業務がリモートワークに移行する中でも、「働いている人たちの目付きとか(中略)そういうものこそ現地・現物は維持すべきだ」と、フェース・トゥー・フェースが必要との思いを語った。

 現地・現物という言葉は、トヨタ生産方式の生みの親である同社元副社長の大野耐一氏が編み出した。単に現地に足を運ぶという意味ではなく、現場をじっくりと観察し、得られる情報を解析して課題を洗い出し、解決策を導き出すことまでを包含した概念だ。製造業はもちろん、流通・サービス業も含め、日本の多くの企業が参考にした。

 果たしてその総本山であるトヨタが、豊田社長の言葉とは裏腹に現地・現物を見失いかけている。9月29日、トヨタは販売店で相次いでいる車検不正の「総点検」の結果と対策についての説明会見に臨んだ。3月、トヨタのお膝元の販売会社、ネッツトヨタ愛知(名古屋市)が、18年以降、約5200台の車検で法令違反を犯していたことが明らかになった。

 製販分離を進めてきたトヨタに残る唯一の直営販社、トヨタモビリティ東京(東京・港)でも7月に、一部検査の未実施や数値の書き換えといった不正が発覚。全国の販売拠点を調査した結果、累計で6659台の不正があったことが明らかになった。

「でき過ぎた」好業績

 驚くべきはその台数よりも、車検整備の現場が、トヨタが生産現場では血道を上げて撲滅してきた「ムリ・ムダ・ムラ」の温床だったという点だ。