老後の生活費が2000万円不足するとした金融庁の報告書を巡る騒動は、公的年金に関する政官の不作為の結果だ。もともと、公的年金は老後の生活を保障していないことを“隠して”いる。

 「今から2000万円ためるなんて無理」。50代の知人がそう嘆く。金融庁が6月初めに取りまとめた報告書から始まった騒ぎは、少なからぬ国民を動揺させた。

 この問題は政官の不作為がもたらしたものではないか。公的年金の本当の姿や、国民が直面する課題を全く説明してこなかった咎(とが)である。

 金融庁の報告書の内容は次のようになる。夫65歳以上で妻60歳以上の平均的な無職夫婦の場合、収入は年金を中心に月20万9000円で、食費、医療費などの支出は26万3000円。その差額5万4000円の赤字が30年続けば約2000万円不足が生じるから、金融資産から補塡する必要があるとした。

 「このデータの基は総務省の家計調査であり、毎月5万円程度の赤字が生じることは以前から分かっていた」と年金や財政学者は口をそろえる。一方、この問題を政争に使いたい野党は「国民はそんな情報は知らない」と指摘する。いずれもその通りだろう。

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