人的資本経営の土台を腐らすな

 少し前の日本経済新聞の調査ですが、大企業の健康保険組合の4割で2009~19年度の間に健康診断などに使う1人当たりの保健事業費を減らしていたことが分かりました。高齢者医療費の増大による財政悪化で、現役世代への支出を削るという本末転倒。コロナ禍を機に医療費の膨張は続いており、23年度は約1400ある健保組合の8割が赤字に陥る見通し。社員の健康増進への影響が懸念されます。

 今号の特集は「健保沈没」。すでに健保組合の2割強が「解散ライン」にあるとされ、人的資本経営の根幹をなす健康経営の土台が揺らいでいます。特集では社員の医療・健康データを駆使して医療費を抑えようとする健保組合の取り組みを紹介しました。目的は支出の削減ですが、社員が健康的に働く環境を整えれば労働生産性が高まり、企業の成長にも寄与するはず。家族の健康も同様です。

 ただ特集の中で古井祐司・東大特任教授は「健保組合と積極的に連携して人的資本経営をやっていこうと考える企業はまだ全体の1割」と指摘しています。会社と従業員が二人三脚で運営するのが健保組合。健康経営に取り組むのであれば、まず経営者の意識を変える必要がありそうです。

(磯貝 高行)

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