昭和モデルの壁を破る時

 日本経済に賃上げムードが漂っています。口火を切ったのがファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。国内従業員の年収を最大約4割引き上げることを決め、多くの経営者の決断に影響を与えました。柳井さんは昨年末のインタビューで「優秀な人材にはしっかり報酬を払って、しっかり仕事をしてもらう体制づくりが必要」と話しています。

 コロナ禍から脱しつつある日本を襲う働き手不足。イオンなど流通大手も相次ぎ、パート女性への大幅な賃上げを打ち出しました。人材の争奪戦は正規から非正規に波及し、賃金が上がらない「失われた30年」からの脱却に光が差し始めています。

 そこで問題になるのが「年収の壁」です。パート女性などが一定の所得を超えると税や社会保険料が発生し「働き損」になる現行制度を見直さないと、せっかくの賃上げも水泡に帰してしまいます。

 「夫が外で働き、妻は家庭を守る」という昭和型の社会経済モデルを作り変えなければ、女性の労働力を経済成長につなげることはできません。ただ昭和モデルは年金、保険、税制など各方面に深く根を張っています。「構造的な賃上げ」を宣言した岸田文雄首相の改革力に期待します。

(磯貝 高行)

次ページ 企業変革には「順序が大事」