春の来ない冬はない

 ロシアのウクライナ侵攻から1年がたちました。市街地に銃弾やミサイルが飛び交い、多くの市民が犠牲になる痛ましい映像に、現実世界とは思えない錯覚に陥ります。戦争をするなら仮想現実の空間で戦火を交えてほしいと思うのは私だけでしょうか。

 今号の特集は「メタバース 幻滅の先に」。コロナ禍の中で新たなコミュニケーションとして熱狂的な関心を集めたメタバース。大きすぎた期待はコロナの沈静化とともにバブルのようにはじけました。投資マネーもメタバースからChatGPTに代表される生成系人工知能(AI)に移っています。

 とはいえ、AIも同じ軌跡をたどっています。米調査会社ガートナーの「ハイプ・サイクル」理論によると、新しいテクノロジーは黎明(れいめい)期、「過度な期待」のピーク期、幻滅期、啓発期、生産性の安定期の5段階を経て普及するといいます。期待度を縦軸に置くと緩やかなN字カーブを描き、AIは幻滅期を経て本格的な普及が始まる啓発期に入りました。メタバースも春を前にした冬の時期なのかもしれません。

 厳冬が続くウクライナ。春の来ない冬はないと信じて戦火がやむのを祈るばかりです。

(磯貝 高行)

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