先輩の我々は果たして……

 「ラオスから来ました」「ミャンマー人です」「カンボジア出身です」──。この5年ぐらいでしょうか、バンコクの歓楽街からはすっかりタイ人が姿を消し、酔客の相手をするのは、近隣国出身者ばかりになりました。学生だった2000年代半ば以来、この街を訪れるたびに何らかの変化を目にして、驚かされたり、刺激を受けたりしてきましたが、ここ最近で一番印象的だったのが、この夜の街の主役交代でした。

 この肌感覚を何とか記事にしようと、手探りで取材を始めた今回の第2特集。訪問した取材先ではまず、「人手不足は起きていませんね」と聞かされて、肩を落とすものの、話を進めるうちに、「とりわけタイ人幹部の間で、中長期的な人手確保に対する危機感は強く、対策を始めています」と聞いて、胸をなで下ろすという展開が続きました。

 急速に少子化が進むタイ。29年にも人口減少局面に入るとされています。経営層のタイ人が抱く危機感もむべなるかな。一方で、少子化の先輩である我々はどれほど真剣に手を打ってきたでしょうか。「問題意識は両国に共通でも、問題意識だけで終わってしまうのが日本人」……。取材先の一人が漏らした言葉にはうなずかざるを得ませんでした。

(奥平 力)

日経ビジネス2023年2月6日号 100ページより目次
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