みんな権威には弱い

 1960年代に米国で実施された「ミルグラム実験」をご存じでしょうか。人はいかに権威に弱いかを世に知らしめた心理実験です。実験を仕切る研究者が権威者として振る舞い、被験者にさまざまな選択問題を出させます。解答者は隣室におり、間違えるたびに、被験者は罰として解答者に与える電気ショックを強くしていかねばなりません。実は解答者はサクラで、電気ショックを受けていません。それでも隣室から事前に録音された悲鳴が流れ、やがて絶叫へと変わっていきます。被験者が実験の続行をためらうと権威者は「そのまま進めて」などと指示します。

 注目すべきは、実験とは無関係の110人がアンケートで「自分ならどこまでボタンを押すか」と問われた時の回答です。命に危険が及ぶとされた最大値の450ボルトと回答した人は皆無で、大半は150ボルトまでに実験を中断するとしました。しかし実際の実験では被験者の3人に2人が、権威者に促されるまま450ボルトに達するまでボタンを押しました。

 今号の第2特集では権威に服従して五輪汚職に加担した人々を取り上げました。自分が同じ立場だったら権威に逆らうことができると考えていませんか? 過信は禁物です。

(吉野 次郎)

日経ビジネス2023年1月30日号 98ページより目次
まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「編集長の視点/取材の現場から」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。