先人の失敗の上にイノベーションが実現

 「先人の失敗の上に今回の結果がある」。エーザイのレカネマブに関する取材をする中で、東京大学の岩坪威教授がアルツハイマー病薬開発の歴史を振り返ってこう口にされたのが印象的でした。

 開発では、エーザイを含めいくつもの企業が失敗を重ねましたが、だから科学は進歩し、また、様々な課題が明確になり、それを克服する戦略を組み立てたエーザイが臨床試験を成功させました。Aβ(アミロイドベータ)仮説を初めて実証する栄誉をエーザイが手にしたのは、幸運だった面もあるはずです。

 ただ、これでイノベーションが終わるわけではありません。岩坪教授が「2023年にも臨床試験の結果が出るはず」と期待を寄せるのが、米イーライ・リリーのドナネマブです。この薬は数回の治療によって脳内のAβが一定量以下になると投与を中止し、Aβが低レベルで維持されるかを確認する試験を行っています。開発に成功すれば一生投与を続けなくて済む薬になる可能性があり、治療に伴う経済的な問題の軽減に寄与しそうです。

 他にもいくつかの特徴ある候補品の開発が進められています。イノベーションは次にどのような実を結ぶでしょうか。興味が尽きません。

(橋本 宗明)

日経ビジネス2023年1月9日号 91ページより目次
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