強烈な反省なくして改革なし

 「事業がここまでダメになっているのに、なぜそうなったか、社内で理由が明確に語られていません。原因がはっきりしないので、誰も『痛み』を感じていないのです」

 三枝匡氏の著書『V字回復の経営』に出てくる一節です。同著では改革の前に負け戦の原因を徹底的に洗い出す「強烈な反省論」が必要だと説いています。「このままでは確実につぶれる状況だった」という2019年に登板した日本製鉄の橋本英二社長の経営改革も、この強烈な反省論から始めました。

 12年の世紀の合併で誕生した日本製鉄はアベノミクスの追い風を受けて一時期、世界の鉄鋼メーカーで時価総額1位に躍り出ました。「危機の真因は経営統合だった」と言い切る橋本社長は、その慢心と油断が構造改革を遅らせたと自戒します。

 そして「諸悪の根源は余剰能力」と狙いを定め、国内の高炉の火を次々と止めます。これによって設備稼働率を維持するための安値販売にメスを入れ、トヨタ自動車を含む大口顧客を値上げ交渉のテーブルに引きずり出しました。

 改革は社員一人ひとりの自省から始まる。組織人の一人として肝に銘じたいと思います。

(磯貝 高行)

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