「観光公害」は復活させるな

 5年ほど前の話。秋の観光シーズンに京都出張が決まり、直前に宿を探すと市内のビジネスホテルはほぼ満杯。空いていたのは需給に応じた変動価格制を導入する大手ホテルチェーンで、シングルルームが1泊何と4万円超の値段。大阪も高級ホテルしか空きがなく、ネット検索するとラブホテルの「ビジネス出張プラン」が出てきたのには驚きました。

 当時、訪日外国人客が大挙して押し寄せる中で「2020年に政府目標の4000万人に達したら、日本はどうなってしまうのだろう」と想像してぞっとしたのを覚えています。しかしコロナ禍がそんな懸念を洗い流し、観光産業は冬の時代に突入しました。

 今号の特集は「出直し観光立国」。岸田文雄政権は各国に後れを取る入国規制の緩和にようやく動き出し、訪日客への「開国」に観光業界の期待が高まっています。しかし、コロナ以前のオーバーツーリズム(観光公害)も一緒に復活させてはなりません。

 富士山にゴミがあふれ、富良野のラベンダー畑は踏み荒らされる。環境破壊や交通渋滞、騒音など、急ごしらえの観光立国は地域にひずみを生みました。この2年半の「鎖国」を好機ととらえ、「おもてなしの出直し」を考える必要があります。

(磯貝 高行)

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