評価すれど神格化するなかれ

 凄惨な死が、その名を歴史に深く刻むことになるのでしょう。凶弾に倒れた日から世界中から哀悼と賛辞の言葉が集まり、3日後に最高位の勲章授与が決まり、通夜には2500人が長い列を成しました。

 安倍晋三という政治家の存在の大きさを改めて思い知ることになりましたが、決して神格化する必要はありません。彼が日本の政治や経済に残した実績を冷静に評価し、後世に残すことが我々メディアの仕事です。今号の緊急特集「アベノミクスとは何だったのか」は、そんな思いから編集しました。

 第2次安倍政権が発足した2012年12月から続いた景気回復局面は戦後2番目に長い5年11カ月続きましたが、国民には成長への実感が乏しいものでした。金融緩和と財政出動により企業業績と株価は上向きましたが、企業は内部留保をため込み、投資は海外に向かい、賃金も上がらなかったためです。

 安倍氏のスピーチライターだった谷口智彦氏は特集の中で、アベノミクスが未完に終わった背景にリスク忌避の企業経営者と成長への循環を阻む既得権益層の存在があると指摘しています。成長と分配を掲げる岸田政権は、この岩盤を動かすことができるのか。検証していきたいと思います。

(磯貝 高行)

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