「官僚たちの冬」の時代

 「おれたちは、国家に雇われている。大臣に雇われているわけじゃないんだ」。城山三郎氏の小説『官僚たちの夏』の主人公、風越信吾は大臣の前でもノーネクタイで通し、強烈な自負を持って高度成長期の国造りにまい進します。1975年刊行のこの小説を読んで官僚を志した人は多いはずです。

 米国の社会学者、エズラ・ヴォーゲル氏も『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(79年)の中で、日本のエリート官僚が戦後復興と高度成長に果たした役割を高く評価しました。そんな憧れの職業だった国家公務員の希望者が長期低落し、若手の離職者も増加しています。なぜでしょうか。

 ブラック職場というだけでなく、かつての官僚を支えていた「使命感」が薄れているのかもしれません。バブル崩壊後、官僚主導から政治主導への行政改革が進み、安倍晋三政権以降は官邸主導が顕著です。「忖度(そんたく)」という言葉が定着してしまった霞が関に、冒頭の風越信吾の言葉は響かないでしょう。

 しかし米国や中国、欧州連合(EU)との経済競争が激しくなる中、日本はもう一度、官僚の力を再興する必要があります。このままでは国が沈んでいくばかりです。

(磯貝 高行)

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