成り上がり伊藤忠、失敗に学ぶ

 「独立国として、主権国家として、やはり主体性を持つには、主食とそれに準ずるものの自給率を上げ、エネルギーの備蓄をふやすことは必要ですね」

 これはウクライナ危機に混乱する昨今の経済情勢の議論ではなく、1973年に伊藤忠商事副社長だった瀬島龍三氏が本誌に語った言葉です。

 戦時中の大本営参謀を務め、「昭和の怪物」といわれた瀬島氏の指揮のもと、伊藤忠は石油ビジネスにまい進し、2度の石油危機の洗礼を浴びます。当時のインタビューを読むと、一企業の枠を超えて国家の将来を見据えた判断だったことがうかがえます。しかしその失敗は、バブル期の不動産投資と合わせて伊藤忠を長く苦しめることになりました。

 岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は、過去の事業の失敗について、役員や社外取締役を集めて繰り返し議論し研究しているといいます。地力のある財閥系総合商社に一発勝負を挑むのではなく、川下から川上までの商流を地道に磨いて最終利益や時価総額でトップ争いを演じるまでに成り上がった伊藤忠。そこには過去の失敗から学ぶ謙虚な姿勢と、国家を背負うより先に顧客の利益を考える近江商人の遺伝子があるように感じました。

(磯貝 高行)

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