ネットの深淵をのぞく時

 「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」。19世紀のドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの言葉は、どこか現在のネット社会を言い当てているようです。今号の特集では、ネット上に残した様々なデータによって個人のプライバシーが丸裸にされてしまう現状を考察しました。

 総務省の調査によると、平日のネット利用時間の平均は10代が224分、20代が255分。20代の平均睡眠時間が7時間だとすると、起きている間の4分の1をネットの中で過ごしていることになります。どれだけの痕跡を残していることでしょう。

 無料サービスと引き換えに世界中の個人情報を集めるGAFA。情報の格差をなくすはずのデジタル技術がビッグデータという鉱脈をつくり、新たな独占を生み出しました。世論操作はたやすく、情報漏洩のリスクも高まっています。

 米国の法律家、ルイス・ブランダイスは1890年に「独りにしておいてもらう権利」としてプライバシー権の必要性を論じました。それから1世紀以上たった現代では、SNSに自分の日常をさらす投稿があふれています。「独りになりたくない」現代人の習性なのでしょうか。

(磯貝 高行)

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