道路際にぽつんと置かれた持ち主のない三輪車。誰もいない事務所でほこりをかぶり色あせた2年前の新聞紙。日付は2011年3月11日──。
東日本大震災から2年後、福島第1原子力発電所から20km圏内の警戒区域に取材に入りました。被災地の住民は故郷に帰れず、町は時が止まったまま。「原子力 明るい未来のエネルギー」。福島県双葉町の道路には、あの有名な看板が寂しく放置されていました。
地球環境によいとされた原発が地域環境を壊滅させた記憶は、日本のエネルギー政策の後遺症となりました。全国で停止した原発33基のうち、再稼働できたのは10基のみ。国の安全審査の厳格化に加え、住民訴訟による再稼働差し止め判決が相次いだためです。
その間、日本のエネルギーは世界と逆行し化石燃料への依存度を高めました。これを修正しようと経済産業省が7月に示したのが30年のエネルギー基本計画案です。菅義偉政権の温暖化ガス削減目標に向け、電源構成を化石燃料から再生可能エネルギーにシフトさせ、原発の比率も倍増させる計画です。果たして可能なのでしょうか。
今週号の特集は「再エネ 不都合な真実」。再エネ開発が進む町や再稼働に備える原発の現場を記者が歩きました。見えてきたのは、原発だけでなく再エネも地域環境との共生が難しいという事実。30年度に温暖化ガスを13年度比46%削減する目標にはいくつもの壁が立ちふさがっています。
退陣する菅政権の置き土産を引き継ぐ新政権は、この問題と真正面から向き合うことになります。
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