「優秀な学生は起業するか、スタートアップにためらいなく就職する」。東京大学工学部長の染谷隆夫教授からこんな話を聞きました。実際、最近取材した自動運転技術のスタートアップは、新卒社員の大半が東大卒だそうです。熾烈な受験戦争を勝ち抜いて大企業や官庁を目指す伝統的な就職モデルは過去のものになりつつあります。

 今週号の特集は「学歴ダイバーシティー」。2022年以降、大学の卒業生が減少に転じます。18歳人口は30年前から減り続けていますが、「大学全入時代」といわれる進学率の上昇で新卒市場は保たれてきました。しかしそれももう限界。企業は4年制総合大卒中心の採用方針を転換し始めました。

 とりわけ即戦力の高専卒は奪い合いです。先日、北九州市に本社を置く安川電機の役員に「なぜ地方にとどまるのか」と聞くと「福岡県内の優秀な高専卒が集まるから」との回答。それを聞いて妙に納得したのを覚えています。特集ではさらに高卒人材を採用して自ら育成する企業も取り上げています。

 東大卒がスタートアップを選び、大企業が高卒を育てる時代。偏差値の輪切りで大学も就職先も生涯年収さえ決まった時代は去り、「学歴」が溶けていきます。日本マイクロソフト元社長の成毛眞氏は著書『2040年の未来予測』(日経BP)の中で「学歴があればどうにかなる社会は、完全に過去のものになる」と断言しています。

 人材の競争力を決めるのは学校のブランドではなく、そこで何を学んだか。学生時代ほとんど勉強しなかった私が言うのも何ですが。

日経ビジネス2021年8月9日号 7ページより目次

この記事はシリーズ「編集長の視点」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。