「日本だけでなく、多くの国々が五輪開催を非常に恐れている」(ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長)。「自殺行為のようだ」(楽天グループの三木谷浩史会長兼社長)

 今春、IT企業のトップ2人が東京五輪開催に否定的な見解を海外メディアに示したのは、日本のワクチン接種の遅れと医療のひっ迫からでした。

 政府の感染症対策分科会の尾身茂会長も6月に医療崩壊への懸念から、「今の状況でやるというのは、普通はない」と述べ、五輪開催に疑問を呈しました。「尾身の乱」といわれ、政治と世論に封殺されましたが、科学者としてもっともな指摘だと思います。

 現在、自治体や職場でようやくワクチン接種が進みつつありますが、地域差も大きく、混乱が続いています。今月下旬に迫った東京五輪が全くと言っていいほど盛り上がっていないのは、国民の不安の表れでしょう。

 本誌は4月26日号の特集「ワクチン最貧国」で、世界最低クラスのワクチン接種率の現状と、パンデミックに対応できない日本の医療体制の問題点を指摘しました。今週号の特集「立ち向かう医療」はその続編です。

 国のぜい弱なコロナ対策の一方で、医療の現場には危機に向き合い、現状を変えようと奮闘する医師や看護師、病院経営者がいます。医療崩壊をぎりぎりで食い止めているのは、彼らの使命感です。

 再び増えつつあるコロナ感染者数。五輪が感染爆発につながらないよう何をすべきか、我々一人ひとりが考える必要があります。

日経ビジネス2021年7月12日号 9ページより目次

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