天下統一を目前に非業の死を遂げた戦国武将・織田信長。卓抜した戦力の源泉になったのは貨幣経済の構築だったといわれます。

 信長は戦国時代に品質と価値がばらばらだった銅銭の交換レートを決め、金・銀との交換価値も一定にしました。楽市楽座などの経済開放政策が生み出す貨幣で兵を雇い、大量の鉄砲をそろえます。城が買えるといわれた茶器などの名物を好んだのも、貨幣価値に裏付けされた投機的な資産を土地に代わって確保するため。何より信長の旗印は当時の銅銭「永楽通宝」でした。

 閑話休題。今週号の特集は「ビットコイン狂騒曲」です。国家に依存しない通貨・資産として期待される暗号資産(仮想通貨)のビットコイン。今春、米テスラ創業者のイーロン・マスク氏一人の言動に振り回されて相場が大きく変動する危うさを露呈しました。

 中米エルサルバドルでは今月8日、ビットコインを法定通貨にする法案を議会で可決しましたが、安定的な価値の保存という通貨本来の役割を果たせるのか疑問が残ります。

 さて、信長暗殺の真相には朝廷黒幕説、秀吉首謀説など様々な説の中に、お金にまつわる説もあります。明智光秀が信長に国替えを命じられた居城の近江・坂本は貨幣の鋳造拠点であり、光秀は富の源泉を奪われることを恐れたという説です。主君を裏切る理由としては、不満や恨みより経済的利害の方が説得力を感じます。

 「本能寺の変」が起きたのは1582年6月21日。439年前のきょう(今週号の発行日)でした。

日経ビジネス2021年6月21日号 11ページより目次

この記事はシリーズ「編集長の視点」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。