「先生、気層のなかに炭酸ガスが増えてくれば暖かくなるのですか。」

 「それはなるだろう。地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたといわれるくらいだからね。」

 宮沢賢治の童話『グスコーブドリの伝記』の一説です。イーハトーブの技師ブドリは冷害から人々を守るため、火山の人工爆発で炭酸ガスを発生させ、温室効果で気温を上昇させます。この童話が発表されたのは1932年。それ以前から欧州で温室効果が学術的に研究されていたとはいえ、賢治の博識と想像力には驚かされます。

 しかもこの童話には「潮汐発電所」なる言葉が登場します。潮の満ち引きのエネルギーを電力に変える発電所が世界で初めて完成したのは66年のフランスでした。賢治の空想は三十数年後に実現します。

 今週号の特集は「EX(Energy Transformation)~エネルギー維新」。バイデン政権下で米国が温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰し、菅義偉首相は2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を打ち出しました。世界は一気に脱炭素に向かい、競争のルールが大きく変わります。

 化石燃料から脱却できない企業は投資マネーから選別され、サプライチェーンから排除され、消費者からも敬遠される時代が到来しました。企業はすでにエネルギー転換に走り出しています。国の議論を待つ余裕はありません。我々に今求められているのは、30年後から逆算して何をすべきか想像する力です。

日経ビジネス2021年6月14日号 7ページより目次

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