グリム童話の「ハーメルンの笛吹き男」は実話が起源といわれます。中世ドイツのハーメルンの町で大量発生したネズミを旅人が笛一本で駆除。しかし報酬をもらえなかった旅人は笛の音で子供を連れ去り、町から子供が消えてしまう──。童話の起源には諸説ありますが、中世に猛威を振るったペスト(黒死病)を暗示したものという説があります。14世紀のヨーロッパの人口はペストにより激減しました。

 今週号の特集は「無子化社会」。コロナ禍が男女の結婚どころか恋愛まで停止させ、試算では日本の少子化は18年早送りされてしまうそうです。中世と違い、感染症による死亡が人口急減を招く時代ではありませんが、世界最速で少子高齢化が進む日本には出生数の減少加速は致命的です。さらに日本特有の迷信が追い打ちをかけるかもしれません。2026年に60年ぶりに訪れる「丙午(ひのえうま)」です。

 60種類ある干支(えと)の一つである丙午の年に生まれた女性は「気性が激しく、夫を食い殺す」という迷信があり、出産に縁起が悪い年とされます。その起源にも諸説ありますが、一説が井原西鶴の「好色五人女」に登場する八百屋お七。恋人に会いたい一心で放火事件を起こし、処刑されたお七が生まれた年が丙午だったという説です。

 迷信と笑うなかれ。明治時代の丙午である1906年に日本の出生数は前年比4%減となり、直近の1966年(昭和41年)の出生数は何と25%減少しました。次は5年後の2026年。ジェンダー平等の令和カップルがお七の呪いを振り払うことを願います。

日経ビジネス2021年5月24日号 7ページより目次
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