「『御社で生涯働きます』なんていう学生は全員落としましたね」。かつてリクルート(現リクルートホールディングス)で採用を担当していた企業経営者の言葉です。定年まで働く社員が一握りしかいないリクルートでは、退職を「卒業」と呼び、出戻りもOK。会社に依存せず自立することを前提とした人材活用策が、多くの起業家を輩出し、オンライン授業などの新事業を創出する原動力になっているのでしょう。

 今週号の特集は「人材活用ニューノーマル」。コロナ禍を機に会社と社員の関係を見直す企業の事例を研究しています。リーマン・ショックの後に提唱された「ニューノーマル(新常態)」という言葉は、危機から回復しても以前の姿に戻ることはなく、世界が全く別のものになっている状態を指します。人材活用でいえば、テレワークや副業解禁など企業の働き方改革が5~10年早送りされた格好。巻き戻しボタンはありません。

 働き手の意識も大きく変わりました。就職先選びで「会社の将来性」を重視する新入社員はすでに1割未満。自分の能力や個性が生かせる会社を最優先で選び、定年まで同じ会社で働く意識は希薄です。企業がメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用にかじを切るのも、こうした背景があります。

 「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。創業者の江副浩正氏が作ったリクルートの社訓です。会社から与えられるのではなく、自ら成長の機会をつくる。企業が自立した個人の集合体であれば、どんな危機にも負けないはずです。

日経ビジネス2021年5月17日号 7ページより目次

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