幼いころ、寝る前に母親にせがんで何度も読んでもらった絵本があります。『ちびくろサンボ』。黒人少年のサンボが4匹の虎に襲われますが、その後、虎たちがけんかを始め、ヤシの木の周りを輪になってぐるぐる回っているうちに溶けてバターになってしまう、というお話です。そのバターでサンボ家族が作るおいしそうなホットケーキに子供心をくすぐられました。

 そんな絵本が「黒人差別を助長する本だ」という市民運動家に学生時代に出会いました。米国では「サンボ」が黒人に対する蔑称とされ、既に書店から姿を消していたそうです。学生時代、20世紀に残る国家犯罪といわれた南アフリカのアパルトヘイト政策を研究していた私でしたが、知らず知らず自分の中に差別意識が刷り込まれていたのかもしれないとショックを受けたのを覚えています。

 『ちびくろサンボ』はその後、日本でも絶版になりましたが、一方で幼いころに自分の情緒を育んだ作品が消えることへの違和感も残りました。

 今週の特集テーマは、多様性社会の進展が招く「炎上リスク」について様々な実例を紹介しています。「お母さん食堂」が男女の役割の固定化と指摘され、「はだいろ」の色鉛筆が消える──。ダイバーシティ社会が進展する中で、旧来の価値観にNOが突きつけられています。

 それをPolitical Correctness(差別・偏見を排除した中立・公平な表現)と評価するか、過度な言葉狩りと受け止めるか。あなたはどう思いますか。

日経ビジネス2021年4月12日号 7ページより目次

この記事はシリーズ「編集長の視点」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。