梅から桜の季節へと変わる頃になると、亡くなった父のことを思い出します。2月14日のバレンタインデーに入院。そこから昼夜離れず付き添い続けた母にお返しするように3月14日のホワイトデーに息を引き取りました。人は死に向かって生きているとはいえ、永久の別れがこれほど悲しいものだとは思いませんでした。
片道6時間ほどかかる故郷には週に1度帰るのがやっと。日々電話で励ましながら、体の具合を推し量るしかありませんでした。最後の電話は前日。聞きとるのが難しいほど小さくなってしまった声で父は「頑張れよ」と言いました。「父さんも頑張って」と返すと、かすかに笑いました。もう頑張りきったよ、と言っているようでした。覚悟を決めたんだと察し、翌日急いで向かいましたが、間に合いませんでした。
最後の電話で「これまで、ありがとう」と言うべきだったのではないかと今でも悔いています。照れ臭くて言ったことのない感謝の言葉を思い出にしてもらえたかもしれません。しかし、まだ終わっていないのに終わりを告げるのはいけないと思い、その時はその言葉をのみ込みました。
次号から編集長が交代します。私は今号が最後。4年間200号を担当しました。半世紀に及ぶ「日経ビジネス」で最長記録だそうです。後任の磯貝高行のもと日経ビジネスはまだまだ続きます。終わっていないのに言うべきではありませんが、後悔しないために今度は言います。ご愛読ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。
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