スズキ会長の鈴木修さんが6月に経営の第一線から退きます。思い出すのは5年前。スズキとトヨタ自動車の提携のスクープを日経新聞に載せたところ、修さんが激怒。日経懇話会からの退会を通告してこられた時のことです。

 懇話会は全国の経営者や識者とつくる組織で、浜松懇話会の顔役はもちろん修さん。辞めていただくわけにはいきません。面会を拒絶されたため、修さん行きつけの料亭で経営者の方々で宴席を開き、別の宴席にいる修さんを呼んで、偶然居合わせた体の私が直談判することに。頃合いを見て女将に修さんを呼んできてくれるよう頼みます。

 しかし、戻ってきた女将は「来たくないと言ってます」。どうやら察知されたようです。「もう一回お願いします」「やっぱりダメでした」「もう一回だけ」。次にフスマが開くと無表情の修さんが。私が「静岡懇話会が追い上げてきて浜松の会員数を抜きそうです」と言うと修さんはいつもの笑顔に戻って言いました。「おやおや、それはいけませんね。頑張りましょうか」

 多くの修羅場をくぐり抜けた経営者の器と状況を瞬時に把握したうえでの判断の切れはさすがだと感じました。

 特集は「レッドオーシャン」。技術革新や新顔の台頭で自動車業界にもそれが迫っています。情報が瞬時に巡る世界では青い海は存在が難しくなっています。そんな中を泳ぐ修さんを見られないのは残念ですが、後を託される社長の鈴木俊宏さんに期待です。父・修さんをも超える経営者となるチャンスもあります。修さんの年齢になるまでにはまだ30年もありますから。

日経ビジネス2021年3月22日号 7ページより目次
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