個人の人生は果てしない後悔の繰り返しですが、英知を集めてもやはり後悔することはなくならないようです。

 先輩記者がスクープ記事を書きました。1993年のことですが、今読んでも将来に希望を持てるようなワクワクする記事です。「月面からヘリウム3採取計画──官民で研究会、月内に」。放射能をほとんど発生しない夢の核融合燃料といわれるヘリウム3を採取、運搬するため21世紀初めに月面探査を始め、2020~30年ごろの実現を目指す、と書いてあります。

 研究会には通産省のほか日産自動車、日立製作所など約20社が参加するとありますが、残念ながらその後、研究会の音沙汰はなく、すでに日産など宇宙航空事業から撤退した会社もあります。当時はあまりに現実離れした話だったため、追いかけて記事にしたのはオカルト好きの雑誌だけでした。

 そんな中で先輩に直接問い合わせをしてきた海外メディアが1つだけありました。「その国の技術が遅れ過ぎていて実現性が高いと勘違いしたのでは」と私たちは話していましたが、その見方は間違っていました。問い合わせしてきたメディアは中国国営の新華社でした。「この話は本当か」と。

 技術後進国だったはずの中国は13年に月面着陸に成功、ヘリウム3獲得が狙いだとされました。昨年は月の土壌を持ち帰ることにも成功しました。

 ウサギとカメを見ているようです。大事なことは分かっていたのに──。振り返っても仕方ありません。人生と同じようにいくらでもやり直しはきくと思って進むしかありません。

日経ビジネス2021年3月15日号 9ページより目次

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