新型コロナウイルスによって、人生が思っていたものとは違ったものになってしまった方々が多くいらっしゃると思います。いいことか悪いことか、もう元に戻ることはありません。

 先の大戦では日本中がそんな状態であったと思われます。「日本初の学生起業家」とも言われる堀場製作所創業者の堀場雅夫さんも本来なら「起業家」の人生はなかったはずです。研究者を志し、京大で原子核物理を学んでいました。敗戦を受けて、米軍が研究室の設備を破壊してしまったため、仕方なく個人で研究所を設立しました。しかし「研究だけでは食べられない」と片手間で家電製品の修理業を始め、その延長で家庭用停電灯を売り出します。

 「研究所を開設したのは、もう少し技術的に高度な仕事をする狙いだった」にもかかわらず、停電灯はヒット商品に。ただ、それだけでは満足できずコンデンサーの製造・販売に乗り出そうとしますが、朝鮮戦争による物価高の影響で借金を残して頓挫。やむを得ずコンデンサーを作るため開発した計測器を販売し、これが今の堀場製作所を形作ることになります。思い描いた原子核研究者への道は消えていました。

 融通無碍の力、切り替えの早さが成功を手繰り寄せているように見えます。理想よりも生きるため。ちぎれた運命の糸をたぐっても仕方ありません。

 今号の特集テーマは大廃業時代を生き抜く中小企業。企業規模にかかわらず逆境を乗り越えるヒントがきっと見つかります。過去やプライドにとらわれず、新たな挑戦を始める意欲があれば。

日経ビジネス2021年2月15日号 7ページより目次

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