ある東証1部上場のハイテク企業の経営トップが「あの時は危なかった」と振り返っていた出来事があります。よく「あるある」のようにその手の話を耳にしますが、実際に当事者から聞くのは初めてでした。

 その経営者Aさんはある中国企業から招かれ、現地に出かけていきます。空港からは中国語の通訳を手配してくれました。その通訳は頭が良く、好感の持てる身なりで、Aさんのことを「先生、先生」と呼んで丁寧に接し、行く先々で記念撮影を勧めてもくれます。

 ところが、懇親会で気持ち良く飲んだ後、ホテルに戻るとロビーでさよならするはずの通訳が帰らず付いてきます。ついには部屋の中にまでまとわりついてきます。そう。通訳は美しい女性だったのです。「空港で会った時からミニスカートが刺激的だと思っていた」というAさん。しかし、こんな若い女性が自分のようなオジさんに好意を抱くはずがない。ワナに違いないと自分に言い聞かせ危ういところで通訳を追い返しました。

 帰国後、米国の同業の企業幹部が中国でハニートラップに引っかかったという噂が流れAさんは胸をなで下ろします。「記念撮影でやたらと腕を組まれて不思議に思ってたんだよね」。そのハニートラップでは1億ドルが動いたとされます。もちろん、お金より大事な技術がメインターゲットでしょう。

 今号の特集は「中国」。膨張は相対的に加速しているようです。お金の面でも技術でも、日本企業にハニートラップを仕掛ける必要はもうなくなるかもしれません。

日経ビジネス2021年1月25日号 7ページより目次
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